August 31, 2004

ソフトセクターとは(その5)

ソフトセクターの競争戦略(3)KAIモデル

とうとう8月もお仕舞いになってしまいました。

前回のエントリーからずいぶん時間がたってしまいましたが、ソフトセクターの競争戦略の議論の続きをやります。今回は前回書きましたKAIモデルを説明します。

KAIモデルは本来定量化可能モデルですが、ここでは定性モデルとして説明します。

基本的なパラメタは、「業界」、「業務」、「業務機能」、「機能」の四つだけです。これですべて説明できます。機能の集合が業務機能です。業務機能の集合が業務です。業務の集合が業界です。更にこの機能とプログラムは一対一で実装レベルで結びついています。

このタームを使用して前回の議論の補足をします。

まず儲ける仕組みとは、企業がモノやサービスの売買を通して利益を上げるためのビジネスのやり方です。これは更に、B2B、B2Cのいずれであるのか、販売するのはモノであるのかサービスであるのか、モノであればどう言った種類のモノであるのかなど、業態、業界などに細分化されていき、それぞれの中でのビジネスのやり方があると考えるのが普通です。しかも同じ業界の中では概ね同じようなビジネスのやり方をしている(はず?)と考えます。その前提で、実現する仕掛けも、業態、業界毎に共通した仕掛けを適用できると考えるわけです。

つまり、世間の常識では、上記定義における集合間において明確に集合と集合の間に線を引けると言うことですが、実際はそんな単純ではありません。業界内の業務の中身がすべて同じ業務機能であり、機能であるか、冷静に考えればまったく考えるまでもないことです。

このことからの結論は、業界や業務とは確率レベルで分類できる概念であると言うことです。もう少しわかりやすい表現をすれば、業界内部であっても業務も業務機能も機能もよりどりであり、その組み合わせには見かけ上一般性があるとは思えません。

ここでKAIモデルでは、ある仮説を導入します。それは、最上位集合である業界ごとにその部分集合の最大値を持つと言うことです。これもわかりやすく書くと、業界にある機能は定義できない(厳密に書けば定義できます)が業界にない機能は定義できると言うことです。

更に一番最初のエントリーに書いたようにソフトアセットとはこの業務ノウハウであることと組み合わせるとおのずとソフトセクターの競争戦略が見えてきます。 KAI

August 30, 2004

妊娠1ヶ月の

妊婦になぜつわりがあるのか。

これは新生児の一番初期の細胞分裂の邪魔をさせないために、母親の絶対安静を図るための仕掛け以外何者でもありません。妊婦にとって吐き気以上の行動抑止効果はありません。

唐突なサブジェクトですが、現状報告です。 KAI

August 24, 2004

August 20, 2004

ソフトセクターとは(その4)

ソフトセクターの競争戦略(2)

今までの議論は、B2B(2B,2C)を暗黙の前提にしていました。しかもB2Bの中のマッサージ型はあえて除外して議論しています。もともとマッサージ型自体には競争力はないと考えていますが、ソフトウェアエンジニアリングの進化次第では競争力を持つ可能性は十分あります。

残るは、B2Cにおけるソフトセクターの競争力とは何か、競争戦略はいかにあるべきか、ですがこれは次回以降に譲ることにして、今回は前回までで検討が不十分な部分の補足です。

これに対するヒントが、先のインタビューの中の「特に業界のバーティカルな問題を解決するようなソフト」です。私の記述で行けば、マス化した「業務」ではなく全ての「業務」範囲の中の特化・個別化した「業務」機能をカバーするASPです。

この業務に特化する話しは、大昔からどこでも言われてきて別に珍しくも何ともない話しであるにもかかわらず、なぜいまだに実現できていないのか、これが問題なわけです。

今回はあらためてこの問題を考えてみたいと思います。

まず、業務ノウハウと一言で言いますが、この業務ノウハウとは一体何を指しているのでしょうか。話しを単純化するために業務ノウハウを以下のように定義します。

■業務ノウハウとは、儲ける仕組みと、それを実現するための仕掛けおよび知識を指す。

まず儲ける仕組みとは、企業がモノやサービスの売買を通して利益を上げるためのビジネスのやり方です。これは更に、B2B、B2Cのいずれであるのか、販売するのはモノであるのかサービスであるのか、モノであればどう言った種類のモノであるのかなど、業態、業界などに細分化されていき、それぞれの中でのビジネスのやり方があると考えるのが普通です。しかも同じ業界の中では概ね同じようなビジネスのやり方をしている(はず?)と考えます。その前提で、実現する仕掛けも、業態、業界毎に共通した仕掛けを適用できると考えるわけです。

この考え方に基づいて、業務に特化する方向性が出てくるわけですが、しかし、果たしてそれは本当でしょうか。これについて先の「持たずに押さえる:ハイテク/インターネットセクターの競争戦略試論」の中で渡辺聡さんが紹介しているハーバード・ビジネス・レビュー(ダイヤモンド社、9(2004)、p.49)の中のソニーの森本博行氏の論文が参考になります。

 しかし、利益を左右するキー・サクセス・ドライバーは、業界構造か、経営資源かのいずれかを問う二元論的に判別できるものではない。むしろ、双方がプラスに影響し合った結果であると考えれば、より複雑にからみ合っているはずである。  たとえば、最近デルが参入したプリンター業界では、HP、キャノン、リコー、エプソン、レックスマーク、ブラザーなど、多数の企業がしのぎを削っているにもかかわらず、いずれも収益性は高い。しかもPCとのインターフェースは標準化されており、プリンター・エンジン部の入手も比較的容易なため、参入障壁によって守られた業界ではない。  実際、利益を製品本体よりもむしろ企業間での互換性に乏しいトナー・カートリッジに依存している企業もあれば、部品の内製化によって収益性を向上させている企業、印字精度という技術力の向上にフォーカスしている企業、あるいはエンジン部を外部に依存することで開発費を節約して収益性を維持している企業など、キー・サクセス・ドライバーはまちまちである。  したがって、業界構造、自社の経営資源や事業構造をどのようにとらえるかによって、キー・サクセス・ドライバーも変わってくる。

この論文は高収益企業の利益モデルがどうなっているかがテーマですが、この利益モデルとはそのまま今私が問題にしている業務ノウハウとしてのビジネスモデルになります。森本氏が指摘しているように、たとえ同じプリンターと言う製品のベンダー同士でさえ、その収益モデルはまったく別物です。

実はこれが最初の問題認識「業務に特化するも、うまくいかない」の原因であり、今回のソフトセクターの競争力についての強力なヒントになります。

KAIモデル

これから先は実際私たちの会社のノウハウそのもので、どううまく説明するか正直悩むのですが、このKAIモデルで説明すればすべて解決できます。

次回はこのKAIモデルを使ってソフトセクターの競争力について議論したいと思います。 KAI

August 18, 2004

ソフトセクターとは(その3)

ソフトセクターの競争戦略(1)

このテーマの元ネタのタイトル「持たずに押さえる:ハイテク/インターネットセクターの競争戦略試論」とある通り、元々はソフトセクターの競争戦略とは何かを考えるのがこのエントリーの目的です。

渡辺聡さんが、

その他幾つかの事例をケースとして浮かびあがってきた方向性としては「”持たない”が”押さえる”」というのが一つキーワードとなるのではなかろうかという話だった。

と書いている戦略とは、私の論で行けば、コスト効率にさらされるハードアセットを「持たない」で業務ノウハウと言うソフトアセットを「押さえる」、と言うことになります。

放っておけばソフトアセットはハードアセットへと流れていく習性があります。

もともと業務ノウハウを持って様々なモノを販売しているハードセクターでは、その業務ノウハウを内製化し自社システムとして構築しています。そのシステムのハードを含むメンテナンスと機能追加のコストはすべて自社負担です。すなわちこれはまさしくソフトアセットのハードアセット化です。

これを、ソフトセクターとしてビジネスモデル化するのがASPサービスですが、これには二つの大きな問題があります。

サーバーを含めてシステムを外部に預けるという問題

ASPにおいて必ず問題になるのが、サーバーを含めてシステムを外部に預けると言うことです。特にERPのような企業の基幹システムなら尚更です。万一ASPサービスが停止してしまったら企業の業務そのものが停止してしまいます。

この問題について、以前LOOP誌で梅田さんが行った、セールスフォース・ドットコム会長兼CEOであるマーク・ベニオフ氏へのインタビュー記事「ITは死んでいない。ASPモデルが成功する」に次のようなやりとりがあります。

Q シルバーレイク・パートナーズの投資家であるロジャー・マクナミーは、セールスフォースは「顧客側の不安感」が障害になっているといいます。つまり、確固たる証拠はないものの、このソフトはセキュリティに穴があるのではないか、こちら側で管理が十分にできないのではないかと、製品を100%信頼するのに心理的な抵抗を感じるということです。この問題にはどう取り組んでいますか。

A 同じようなモデルで成功している他業種の例を出して説明します。たとえば、給料支払いをアウトソースし、請負会社へデータをすっかり移行させている企業はたくさんあります。あるいは銀行。銀行に金を預けているからといって、心配しませんね。給料支払いをアウトソースしても大丈夫で、銀行に金を預けても安全で、ホットメールの電子メールを利用しても、アマゾンに店を出しても心配はない。

 そして、セールスフォースに販売データがあっても安心なのです。時間をかけて、その安心感を築いていくのです。何度も対話しながら、顧客の成功があってこそ、われわれも成功するのだという、同じメッセージを伝える。いずれヨーロッパや日本でも、さらに多くの企業がデータを社外に移行させるこのモデルに倣うはずです。

 今、ベンチャーキャピタリストに話を聞くと、彼らはもはや従来のようなソフトウエアメーカーには関心がない。それよりも、セールスフォースと同じようなモデルのスタートアップに投資を向けているといいます。それも、特に業界のバーティカルな問題を解決するようなソフトを開発しているところが多いと聞きます。

このインタビューの回答の通り、この問題は時間が解決するものと考えています。これを加速させるには楽天と同じようにこのセクターの成功事例を積み上げていくしかありません。

自社独自の業務ノウハウの蓄積の問題

もう一つの問題が、パッケージでは自社独自の業務ノウハウが蓄積できないのではと言う問題です。しかも、この問題が、企業がASPサービスの導入を躊躇する一番の要因ともなっています。これに対する対策は、私たちが運営するASPサービスでは既にできているのですが、ノウハウに関わる部分ですのでここでは割愛させて頂きます。ただいかなる対策を行っても、企業側の「自社システム=自社独自ノウハウ」と言う思い込みを払拭させるのは簡単ではありません。

つまり、このことはソフトセクター内部での競争力だけではなく、ハードセクターの中にある自社システムとの間の競争力が、ASPサービスと言うビジネスモデルに備わっていないと、魅力ある成長市場とは見なせないと言うことでもあります。

これに対するヒントが、先のインタビューの中の「特に業界のバーティカルな問題を解決するようなソフト」です。私の記述で行けば、マス化した「業務」ではなく全ての「業務」範囲の中の特化・個別化した「業務」機能をカバーするASPです。

これであれば上記の二番目の問題の自社独自の業務ノウハウ自体、自社にないものが最初から備わっていて、ASPを利用すること自体が他社との差別化になると言うものです。では他社も利用し始めたらどうなるか。これは利用経験という組織としてのナレッジの蓄積として差別化が可能であることを考えれば解決します。逆に後塵に拝した場合のASPサービスの利用のメリットは説明するまでもありません。

このことから、現在多く行われているようなグループウェアなどのマス化した「業務」のASPでは競争力という意味で問題外の「業務」だと言う結論を導くのは、容易です。

以下次回に。 KAI

August 17, 2004

ソフトセクターとは(その2)

前回の続きです。

■ソフトセクターとはモノの「機能」を主たる目的として売買する事業を指す

■ハードセクターとはモノを売買する事業を指す

この定義によれば、ソフトウェア業界は一応ソフトセクターには分類されるもののその中身をもう少し吟味しておく必要があります。

どういうことかと言うと、ソフトウェア業界で言うところの「機能」とは、大半のソフトウェア企業の売買において、そのままソフトウェアの機能を指しているわけではないと言うことです。

前回の佐和氏の引用の中で彼は、

 吉川弘之東大教授は、情報によって受け手に間接的効果を引き起こすものをメッセージ型サービス、直接的効果を引き起こすものをマッサージ型サービスとして、サービス業を二分類することを提唱されている。情報産業と呼ばれるものの多くは、メッセージ型サービス業である。メッセージ型サービスの分野では、コンピュータを中心とする情報処理装置、入出力機器、通信網などの情報伝達装置、人工知能ソフトウェアなど、先端技術の導入がきわめて盛んである。

と、情報産業をメッセージ型サービス業と位置づけていますが、これは間違いです。開発したシステムそのものを使用すること自体は、すなわちユーザーは、メッセージ型サービス業ですが、システムの開発そのものは、大半のソフトウェア会社がマッサージ型サービス業であるのです。なぜかと言いますとシステム開発の売買単位がソフトウェアの「機能」ではなく「人月」と呼ばれる、開発を担当する技術者の技能と言う「機能」が売買単位になっているからです。

ERPパッケージを開発して販売している会社はもちろんパッケージの「機能」を売買単位にしていますので、メッセージ型サービス業と言えます。しかしERPパッケージをカスタマイズしてユーザーに納入する会社の売買単位は名目は別にしてやはり「人月」ですからマッサージ型なのです。

逆にメッセージ型に分類できるソフトセクターは限られています。ERPパッケージを含めてカスタマイズする前の(あるいはカスタマイズしない)パッケージのベンダーとこれらのASPサービス事業者だけです。

ソフトアセットからハードアセットへと言う流れ

前回以下のように書きました。

むしろこの議論の根本の問題は、ハードセクターとソフトセクターの境界線を、どう言う尺度でどこに引くかこそ議論の本質ではないでしょうか。更に話しを続ければ、ハードセクターにおけるハードアセットの意味は昔も今も大きく変わってはいないし、ソフトセクターのソフトアセットの意味も同様であって、指摘されるような『ソフトセクターは転換期に入ってしまっている』と言うのは実はそれぞれのアセットの価値の変動ではなく事業のセクターの転換であるととらえるべきだと言う立場です。

ハードアセットもソフトアセットもその中身は別にして、資産価値すなわち利益がどれだけ得られるかと言う意味で、昔も今も評価の方法は変わっていません。そしてその中身は、ハードアセットはコストパフォーマンスを持つモノであり、ソフトアセットはソフトウェアで実現される業務ノウハウです。

このように考えると様々な現象の真相が見えてきます。

ソフトセクターの成熟化とは、ソフトセクターの従来の分類の大半を占めるマッサージ型サービス業における売買単価の下落による売上の減少です。ソフトセクターに、メッセージ型サービス業であるユーザーも含めると、これはソフトセクターが今なお爆発的な拡大傾向にあると言えます。すなわちインターネットの普及で、ソフトアセットである「業務」そのものが、今までのマス化した「業務」という限られた世界から、解き放たれた不死鳥がごとくすべての「業務」範囲までに拡大しようとしていると言うことです。

渡辺聡さんは、

ところが、上記の通り、ソフトセクターは転換期に入ってしまっている。オープン化、標準化の動きとも合わせて考えると、ある日出てきた品質の良いアプリが世の中を席巻し、次々と高収益企業が出来上がるという話はリアリティを感じられなくなってきた。これからは無形資産、インタンジブル・アセットの時代だとの話を数年前から良く耳にするようになったが、リストの中からアプリケーションそのものは落ちつつある、もしくは事業デザインの一部に一体化した形で組み込まれつつあるのだろう。出来の良いアプリといえども単体では資産価値を持たなくなりつつあり、競争力維持の投資対象としての位置づけは変わってきている。

と書いていますが、ここで言うアプリはマス化した「業務」のみを見ていると思います。すべての「業務」範囲とは別の言い方をすればあらゆる世の中のビジネスモデルです。ネットで証券の取引をするためにはソフトセクター抜きには考えられません。

併行して起こる現象が、この段の冒頭の、

アセットの価値の変動ではなく事業のセクターの転換

です。

ソフトセクターはやがてハードセクターへ転換していきます。インターネットを含めた、業務ノウハウが組み込まれたシステム自体がモノ化し、装置として機能するようになって、モノを売買するハードセクターへ転換していくのです。OSしかりケータイしかりです。そしてそこではハードアセットのコストパフォーマンスの競争が繰り広げられます。

どんな優れたソフトアセットでも、この流れに抗することはできません。プログラムと言うモノ化が避けられないと言うことです。これに抗する唯一の方法が私はASPサービスであると考えています。ASPサービスは、唯一ソフトセクター側でソフトアセットを進化させることができます。多大なる資本を投下した第n次開発も不要です。数百以上のユーザーに支えられて不断の開発が可能だからです。

以下次回に書きます。 KAI

August 16, 2004

ソフトセクターとは

夏休み中に、CNETに渡辺聡さんが刺激的なエントリーをいくつか書いています。

夏休み明けと言うことで今回は、その中の「持たずに押さえる:ハイテク/インターネットセクターの競争戦略試論」の内容について。

バブル崩壊前までのソフトウェア市場での競争力はアプリケーションの完成度に基本的には依存した。もちろん、マーケティングの巧拙やアーキテクチャーの転換期に上手く次の製品を出せたかなどポイントポイントの差はあるが、さっさとロックインしてしまったOSなどを除くと、RDB、ERPなど機能の高度化を目指して競合が切磋琢磨していた。ハードアセットと対比するなら、「ソフトアセット」の品質が競争力の根幹にあったわけである。人に投資し、アプリケーションに集積していくことが企業の基本方針となる。

ところが、上記の通り、ソフトセクターは転換期に入ってしまっている。オープン化、標準化の動きとも合わせて考えると、ある日出てきた品質の良いアプリが世の中を席巻し、次々と高収益企業が出来上がるという話はリアリティを感じられなくなってきた。これからは無形資産、インタンジブル・アセットの時代だとの話を数年前から良く耳にするようになったが、リストの中からアプリケーションそのものは落ちつつある、もしくは事業デザインの一部に一体化した形で組み込まれつつあるのだろう。出来の良いアプリといえども単体では資産価値を持たなくなりつつあり、競争力維持の投資対象としての位置づけは変わってきている。

(中略)
7時間の話を早足で圧縮したが、要するにピザーラはコモデティ要素の上に成り立っている収益体と言える。素材購買、流通などのサプライチェーンを持ち、実際の生産工程もあることからソフト産業とまったく同一という訳にはもちろん行かないが、どこをどう押さえていることがキーとなっているかにヒントは見つけられることだろう。その他幾つかの事例をケースとして浮かびあがってきた方向性としては「”持たない”が”押さえる”」というのが一つキーワードとなるのではなかろうかという話だった。

こうしたアナロジーによる分析では見えてこないのがソフトセクターの特徴ではないかと日頃から考えています。

むしろこの議論の根本の問題は、ハードセクターとソフトセクターの境界線を、どう言う尺度でどこに引くかこそ議論の本質ではないでしょうか。更に話しを続ければ、ハードセクターにおけるハードアセットの意味は昔も今も大きく変わってはいないし、ソフトセクターのソフトアセットの意味も同様であって、指摘されるような『ソフトセクターは転換期に入ってしまっている』と言うのは実はそれぞれのアセットの価値の変動ではなく事業のセクターの転換であるととらえるべきだと言う立場です。

私の定義と尺度でもって分類すれば、ピザーラはハードセクターであってソフトセクターではありません。OSも、昔はソフトセクターでしたが今ではハードセクターです。

これを、「サービス化経済入門」(中公新書、佐和隆光編、1990、p.16-19)の記述の中から長いですが引用して説明します。

情報産業がサービスを変える

 情報化には「産業の情報化」と「情報の産業化」という両面がある。「産業の情報化」とは、たとえばコンピュータを導入して、企業の事務管理や在庫管理の効率化を図ることである。卸小売業におけるPOS(販売時点情報管理)システムなどが、その代表例として挙げられる。一方、そうした「産業の情報化」にともない、ソフトウェア開発業務、受託計算業務、情報提供サービスなどの情報関連サービス業が、著しい伸びを示している。これが「情報の産業化」といわれる側面である(図1.1)。
 こうした二重の意味での情報化が進めば、低コスト・良質のサービスに対する企業の旺盛な需要が、対事業所サービス業を活性化するのみならず、サービス消費のあり方そのものに本質的な変容を迫るという側面もまた見逃せない。
 財と比較してサービスは、(1)非貯蓄性、(2)無形性、(3)一過性、(4)非可逆性などの基本特性をもっている。サービスを完成品として在庫したり輸送することはできない。したがって消費者がサービスを享受するとき、同時的に提供されなければならない。確かに、在来型のサービスの市場には、時間的かつ空間的に一定の仕切りが設けられているため、サービスの供給者と需要者はきわめて狭い範囲内でしか出会うチャンスがなかった。いわゆる「なじみ関係」にほかならない。行きつけの理髪店が決まっていたり、かかりつけのお医者さんに世話になるというのが、その典型例である。
 ところが情報関連サービスの進展にともない、「サービス」の予約ということが可能になった。サービスの供給者がサービス提供の場所、時間、料金、サービスの質などについての情報を予め登録しておく。需要者のほうは、登録されている多様なメニューのなかから、自分の要求にかなったサービスを探索する。ちょうど小売店で必要な商品を買うようなものである。映画や音楽会のチケット販売システム、電車の指定券販売オンラインシステムなどとして、私たちの身の回りにその例は多い。
 吉川弘之東大教授は、情報によって受け手に間接的効果を引き起こすものをメッセージ型サービス、直接的効果を引き起こすものをマッサージ型サービスとして、サービス業を二分類することを提唱されている。情報産業と呼ばれるものの多くは、メッセージ型サービス業である。メッセージ型サービスの分野では、コンピュータを中心とする情報処理装置、入出力機器、通信網などの情報伝達装置、人工知能ソフトウェアなど、先端技術の導入がきわめて盛んである。
 サービスの予約システムの導入によって、トラベル・エージェンシーやプレイガイドなど、サービスの予約を斡旋するビジネスが繁盛し、場所と時間の制約を越えてサービス市場が発展し、より一層の競争が鼓舞されるであろう。このことが適正な価格水準の維持に貢献するものと期待される。

サービスとモノの関係

 サービス産業の進展とモノの関係について、最後に一言触れておくことにしよう。
 サービスとは、モノの「機能」をフローとして市場で取引する営みにほかならない。いいかえれば、モノ自体ではなく、モノの持つ「機能」を売買の対象とするのがサービス業なのである。耐久消費財というモノは、それ自体、売買の対象とされるのが普通である。しかし物品リース業は、耐久消費財の「機能」を取引の対象としており、その営みはサービス業に分類される。そのほか、タクシーや宅配便を、「輸送」という自動車の「機能」を売るサービス業とみなすことができる。
 逆にいえば、ほとんどのサービス業は、なんらかのモノのサポートがなければ成り立ちえない。また、物財の「機能」の向上や多様化を通じて、サービスの外部化や多様化がもたらされる。結局、モノの「機能」を向上させ多様化させる技術革新が、経済のサービス化を推し進める動因にほかならないのである。
 さらにいえば、モノに埋め込まれ使用時に発現する「機能」の売買が、モノの売買の本質である、というふうにみることができる。たとえば、テレビ受像器というモノを買うのは、テレビというモノ自体を買うというよりは、テレビが受像する映像メッセージを買うというふうに考えるほうが、消費者の行動の本質をより的確にとらえている。つまりいつの時代においても「サービス」は産業の究極の目的であって、サービス提供の媒体としてのモノが時代とともに移り変わってきたにすぎない。
 このようにモノとサービスが表裏一体の関係にあることに着目することにより、サービス経済化の進展を、モノとその生産技術の革新の結果としてとらえる、新しい視点にたどり着くことができるのである。

前半の引用はなくてもいいのですが、今後の議論のためにあえて引用しています。彼の議論は、国家の公の定義であるサービス業について、その統計データをもとにした彼の言うサービス経済化の動向を分析するための議論ですので、例示を含めて少々古臭い内容ですが、今回の私の論の本質を突いています。

つまり、ハードセクターとソフトセクターの境界線は情報技術とは直列的には相関せず、情報技術と言う多層的な産業技術間の相互の干渉すなわちウェイトがどこにあるかこそ、セクターを分ける尺度として採用できると言うことです。なんだかわかりずらい表現になってしまいましたが、要は以下の定義を採用すると言うことです。

■ソフトセクターとはモノの「機能」を主たる目的として売買する事業を指す
■ハードセクターとはモノを売買する事業を指す

次回以降この定義に基づいて、議論します。 KAI