May 31, 2004

使い捨てアプリは開発者の怠慢

今回は江島さんのBlogデータの連続性とプロセスの非連続性についてのコメントです。

しかし、Psychsさんと話しているうちに生まれた新たな発見は「データは長持ちさせたいがアプリケーションは使い捨て」「システムは属人化させよう、データの意味を理解している人に」「長く使おうとして正しくモデリング(抽象化)するのではなく、さっさと決めてラウンドトリップを速くすることに専念しよう、どうせ捨てるのだから」などのスローガンに集約され、これまで考えていた「システム(コードベース)自体のライフサイクルを長持ちするようにしよう」という考え方とはまるで正反対のものだった。ゴールはそっくりなのだが、アプローチは大きく異なる。

早く作って早く捨てる。慎重に計画して長期にわたる巨大な投資を行うよりも、半分の投資をまず行ってレビューを行い、その結果に基づいて(前のものは捨てて)残りの半分を再投資する。こういった失敗前提型の短いサイクルの投資の方が結果的にリスクを低減させるのではないかという考え方である。(キャッシュポジション的にも当然ながら後者の方がよい)

アプリケーションという抽象的概念は、プログラムという実装で、解釈という多義性を免れることができます。同様に、プロセスやデータのモデリングも、プログラムの実装抜きでは単なる言葉の遊びに過ぎません。

また、プログラムの実装は、そのプログラムを動作させるためのハードウェアおよびソフトウェアの仕掛けあるいは性能に依存し、よってその制約を厳しく受けることになります。それがまた、抽象化の概念に跳ね返り、モデリングの概念を規定することになります。つまり、モデリングとはそれ自身が単体で存在できるわけではなく、その実装技術に強く依存しており、結果、技術の進歩の影響を、良い意味でも悪い意味でも強く受けることになります。

このことは別の言い方をすると、アプリケーションの変化の直接的原因が、人間系にあるのではなく、実装技術を支える基盤技術(これを私はアプリケーションの最適環境と呼んでいます)側の変化にあることを意味していると言えます。

人間系が原因だと考える立場の人は、世の中の変化や経営状況が外部要因となってアプリケーションに新たな機能が追加されたり、逆に機能不足になると考えがちです。はたして、そうでしょうか。

業務系のアプリケーションの必須要件は、データの一元管理とリアルタイム処理であると、私は常々申し上げてきましたが、これを実現するのはたやすいことではありません。同一エリア上ならそれほど問題にならないものが、多地点、複数拠点で業務を行おうとすると、たちまち技術上、経済上の制約を受けることは今更説明の余地はないでしょう。つまり、今までのアプリケーションというのは、結局、ユーザーのニーズを100%満たすようなものはほぼ存在せず(予算が潤沢な団体は別にして)、今回のインターネットの普及に伴うような「最適環境」の劇的変化に遭遇して初めて、たちまち本来のニーズに向けた開発が始まるというのが、実相ではないでしょうか。

もし、この仮説が正しいとすれば、江島さんたちの「発見」もすべて説明がつきます。

■「データは長持ちさせたいがアプリケーションは使い捨て」
当然ニーズを100%満たしていないアプリケーションは、使い続けながら、新しくニーズを満たすものに作り変えたい。

■「システムは属人化させよう、データの意味を理解している人に」
アプリケーションの変化の動機は「最適環境」にあるのですから、本来のニーズと言う、人の中にあるものは変化せず同じはずです。これをヘタにモデル化したらとんでもないことに。

■「長く使おうとして正しくモデリング(抽象化)するのではなく、さっさと決めてラウンドトリップを速くすることに専念しよう、どうせ捨てるのだから」
現実に実現できる実装技術の範囲にニーズを絞り込むことで、アプリケーションとしてのコストパフォーマンスの最適化を実現するのだ。

江島さんの後半のコメントもすべて抽象概念と実装という「概念」に還元できると思いますが、こちらはいずれまた。 KAI

May 27, 2004

閑話求題−Blog論

今回はKAI流Blog論です。

Blogを始めて1ヶ月以上が経ち、エントリーもそろそろ30にになります。私なりにBlogの意味を考えてみました。

この論を始める前に以下の定義を導入したいと思います。

■Blogを書くのに、考える人、考えない人、がいる。
■Blogを書くのに、相手がいる人、相手がいない(相手を意識しない)人、がいる。

この二つの条件の組み合わせで、Blogを書く人に以下の4種類のパターンが存在することになります。

■A型・・・考える人+相手がいる
■B型・・・考えない人+相手がいない
■O型・・・考えない人+相手がいる
■AB型・・・考える人+相手がいない

Blogは日記ではない

よくBlogを日記に例える人がいますが、これは間違っています。Blogが日記と考えるのは、相手がいないB型ないしAB型ですが、公開しているのがBlogですからこれは自己矛盾です。しかしB型にしろAB型にしろ、本人にすれば、相手のことを意識しない性格ですから、立派にBlogが日記になるというのも肯けます。

むしろ、今回痛切に感じるのはA型である私自身の問題です。この1ヶ月あまりの間の体験は、若かりしころの論文書きと非常に似た心境であったと言うことです。中身自体はずっとBlogの方が軽いのですが、気持ちの問題としては同じです。通常、論文というものは査読してくれる人がいなければ成り立たない文章です。雑誌なり出版系であれば編集者です。これを不特定多数の読者にゆだねるというのはネット世代とPC世代を分ける「インターネットの隠れた本質」に書かれている「ネットの向こうの不特定膨大多数への信頼」以外の何者でもないと思います。

これが久しぶりに知の体験として、毎日毎日の記述自体が非常に刺激的で、かつ新鮮でした。

CNETの記事一つを取っても、これをBlogのテーマとして考えると、様々な展開があって、ニュースの背景がいろいろと見えて来るのも驚きです。

トラックバックの威力

更にBlogはこれだけではありません。自分がトラックバックしたBlogの、別の人からのトラックバックやコメントを読んで、これまた新たな刺激があります。

Blogにおけるトラックバックは、エントリーに対するコメントのような主従の関係と違って、対等の関係で議論が出来ます。しかも、お互いのBlogを読めばその人のコンテキストが理解できます。コメントではそうは行きません。このトラックバックという仕掛けを持ったBlogの構造が、ネットワーク型の、組織、人間関係、社会と言ったものを初めとして、知的ネットワークの構造まで、まるでぴったし一致する。

この感覚こそ、Blogというものの本質を捉えているのではないかという結論です。 KAI

May 26, 2004

pull型広告にはpush型広告も必要?

面白いニュースが飛び込んできた。

「広告がクリックされない」--グーグルの先行きを疑問視する調査結果が発表にという記事。

市場調査会社のVividence(本社:カリフォルニア州サンマテオ)が米国時間の25日に公表した調査では、Googleを使って検索した結果が、他の検索サイトの結果とさほど変わらないことが明らかになった。加えて、検索業界トップの同サイトは現在もうまく顧客を集めてはいるが、同サイトに表示される広告をユーザーがクリックする頻度が他のサイトに比べて低いという。

(中略)

 Googleにとって、ライバル各社による物真似以上に脅威なのは、同社サイトにおける広告のクリック率で他サイトと比べて低いことだ。広告は同社の主要な収入源だが、Vividenceが実施したテストでは、スポンサードリンクや広告がクリックされる頻度に関して、Googleは最下位だったという。

 広告のクリック率が最も高かったのはAsk Jeevesで、2位以降はLycos、MSN、Yahoo、Googleの順となっている。なお、GoogleはAsk Jeevesに検索関連の広告リンクを提供している。Watkinsによると、Googleがライバルに遅れをとった理由の一部には、同社が検索結果のリンクと広告リンクとを厳しく区別しているのに対して、他のサイトでは両者を混在させて表示している点が考えられるという。

「Googleがライバルに遅れをとった理由の一部には、同社が検索結果のリンクと広告リンクとを厳しく区別しているのに対して、他のサイトでは両者を混在させて表示している点が考えられるという」とありますが、検索結果そのものの表示は、どれもスポンサードサイトを先に表示する仕様で違いはないのではないでしょうか。

むしろ違いは、キーワードと(直接的に)関係ない広告の存在のありなしが影響しているのではないかと推測します。

もしこの仮説が正しければ、正に前回から取り上げているpush型広告とpull型広告の問題が関係しているとも言えます。具体的に言うと、pull型広告の中にpush型広告が入ることを消費者は、むしろ望んでいる、と言えるのではないかと言うことです。

今から丁度20年前、一橋大学の教授だった今井賢一氏がA型情報、B型情報という概念を持ちだして、ネットワーク組織での情報の意味を論じておられたと記憶していますが、今回は正にこれが関係しているような気がします。このA型情報とB型情報の関係については、金子郁容氏が「ネットワーキングへの招待」(中公新書)の中で、コード情報とモード情報という用語を使用して説明しています。

以下では、コード化できる情報を「コード情報」と呼び、コードでは表しにくいもの、その雰囲気、やり方、流儀、身振り、態度、香り、調子、感じなど、より複雑に修飾された情報を「モード情報」と呼ぶことにする。モードとは、様式であり、ファッションでいう「モード」でもある。コード情報、モード情報はそれぞれ右でいう(縦書き・引用者注)A型情報、B型情報と基本的には同じであるが、われわれは、「A、B」より記述的でイメージが湧きやすい「コード・モード」という用語を使うことにする(コード・モードは私が過去にA・Bといっていたものより意味がかなり限定されている)。

以降は私の勝手な解釈と推論ですが、pull型広告がここで言うコード情報でありpush型広告はモード情報に該当するのではないか、人は、コード情報ではなくモード情報、つまりpush型広告を根拠に行動するのではないかと言うことです。

これらの話をすべてまとめると、検索エンジンの検索結果の表示画面にも検索キーワードと(直接的な)関係のないキャンペーン広告が必要ではないかと言う結論になります。もちろん、キーワードのスポンサード広告と領域を分ける必要はあります。(この場合ポップアップ広告は論外です)

新聞のスポーツ欄を開くとそこには昨日のプロ野球の結果に並んで様々な広告が掲載されていますが、私たちはそれに違和感を持ちません。検索エンジンの検索結果にキャンペーン広告があっても同じように違和感ないのではないか。これは新聞のスポーツ欄とキーワード検索の結果画面とが同じ位置づけ、同じ意味を持ちつつあるのではないかという新たなる仮説でもあります。 KAI

(追記)
Ask Jeevesに行ってみました。トップページからProduct Serchがあって、これを開くともうしっかりカテゴリがあるじゃないですか!これこそ(不十分ですが)push型広告です。やはり検索エンジン(pull型広告)にはpush型広告が必須です。


May 25, 2004

push型広告とpull型広告

モールのキャンペーンと検索エンジンのキャンペーンの違いは、ある意味でpush型とpull型の違いと言えます。もちろんモールもpullの動作がないとpushを受けないのですが、これはテレビだってスイッチを入れチャネルを合わせないとコマーシャルに行き当たらないのと同じ理屈です。

ここで言っているpush型とは、前回の例で行けば「父の日」というキーワードを入れなくても父の日のキャンペーンとして届けられる類の広告を指します。pull型はこの逆で、「父の日」というキーワードでリンクされた広告になります。たまたま訪れたモールで「父の日キャンペーン」を見た人が、「そうだ父の日に何か贈らなきゃ」って思いつくことは、pull型ではまずありえないでしょう。つまり、push型の方がより多くの新規客を集める仕掛けになっていると言うことであり、すなわち検索エンジンではなくモールでの広告の方が効果が大きいとなるわけです。

そう言いながら、あえてFroogleのトップページの広告に拘るのか。

理由は4点。(1)実店舗は自社サイト(自社サイトなら何でもあり)(2)リンクが自動(リンク手続き不要)(3)アドワーズ広告(広告申込みが自動)(4)圧倒的集客力(のはず)。

1番目の自社サイトというのはダイレクトマーケティングの黄金方程式(続き)で説明した通りです。

2番目のリンクが自動というのは、通常のモールやアラジンなどで必要な商品情報の登録作業がFroogleでは全く自動化されるというものです。頻繁に商品の入れ替え作業を行うサイトにとって大幅な手間の削減になります。更に店舗情報そのものも自動で収集されますので、リンクそのものには費用が発生しません。このことで、可能な限りの店舗を集めることが出来、結果的に4番目の圧倒的集客力に繋がるものと思います。

3番目。代理店などを経由しませんので、これも手間と費用が大幅に削減されます。ただアドワーズはキーワードに対する広告申込みですから、これをキャンペーンに対する広告申込み(もちろんキャンペーンそのものもキーワードにもなります)の機能を追加する必要があります。

4番目。2番目で書いた理由だけではなく、Google自体の圧倒的なシェアから言って、日本版Froogleがオープンすればほぼ間違いなくGoogleユーザーは何らかの形でFroogleユーザーにシフトすると思うからです。

以上の考察はFroogleのトップページにキャンペーン型の広告が追加されると言う前提ですが、もし追加されないと言うことであれば、いつまでも楽天天下が続くのでしょうか。

次回は今のGoogleや他の検索エンジンによるpush型広告の可能性について検討したいと思います。 KAI

May 24, 2004

楽天にとっての脅威はヤフーではなくFroogle

Froogleを眺めながら先日の黄金方程式の中の、新規(モール)の部分を、新規(検索エンジン)にできないかあれこれ考えています。

カテゴリーをクリックすると、右側にアドワーズ広告のSponsored Links欄が表示されます。このアドワーズ広告で、モールのキャンペーンと同じような効果を実現できるのでしょうか。

今、楽天へ行くと父の日のキャンペーンをやっていて、先頭に明太子のふくやが出ています。更にオリジナルジッポープレゼントのキャンペーンもあります。お酒を贈るキャンペーンを開くと、それぞれお薦めのお酒が表示されます。

アドワーズだとこれはどうなるか。トップページには広告がありませんので、それぞれカテゴリーを選ぶかキーワードで検索するしかありません。こちらはGoogleですが、「父の日」というキーワードで検索をかけると、イオンのギフト、マスノスケのサーモンなどなど、ここでやっと広告のお店を開くことが出来ます。これ以降は楽天とまったく同じように新規客を誘導できます。

これは何を意味しているかと言うと、キーワードで検索している限りモールの中での検索およびキャンペーンは越えられないという証左でもあります。ここにおける決定的な違いは、楽天はキーワードが入力されない顧客も捕捉可能ですが、検索エンジンには(少なくとも今のところは)それができないと言うことです。

では、Froogleのトップページにキャンペーン広告を入れられるようにしたらどうでしょうか。

これはもう立派なモールのキャンペーンと同じです。

ということは、近い将来楽天にとって脅威となるのはヤフーではなくFroogle!?。

次回以降この仮説を検証してみたいと思います。 KAI

May 20, 2004

アナザーランドというもう一つの現実世界

いつもいつも梅田さんのBlogは知を刺激して已みません。

ネット世代とPC世代を分ける「インターネットの隠れた本質」は、日頃私自身が同様のことを考えているせいか、まるで一つ一つの言葉が頭の中に染み渡るような感覚に襲われました。

キーワードは、「ネットの向こうに存在する不特定膨大多数」への「信頼(トラスト)の有無」である。ネットの向こうに存在する千万単位、億単位の見知らぬ人々(有象無象)やその知やリソースを、当たり前の存在として心から信頼できるのが「インターネット世代」、頭では仮にわかっても心からは信頼できないのが「PC世代」。というのが、最近僕が感じていることを何とか言葉にしてみた結果である。この「信頼」が存在するかしないかで、製品企画、サービス企画、技術開発の方向も皆、ずいぶん違ってくる。

この「信頼(トラスト)の有無」を私流に言わせれば「リアリティの有無」です。

「リアリティ」とは、「意味空間上の存在」の「リアリティ」のことです。

「意味空間上の存在」が分かりにくければ、これを「数字」に置き換えれば良いです。「数字」も「意味空間上の存在」の一つです。

数字のリアリティの例を考えると、例えば営業マンが約束する今月の売上という数字です。この数字のリアリティがあるとは、売上予算を達成するための裏付けがあって、間違いなく達成されるという数字の値のことです。反対にリアリティがない数字とは、単なる希望であって達成されるかどうかも分からない売上予算のことです。

そういう意味で「リアリティのある数字」を「信頼できる数字」と言い換えても同じことを言っているのが理解できると思います。

更に、売上などの数字と言うものは、過去や現在の数字について言えばこれは確定値ですので、(ダイエーなどの経営再建中の経営者にとっては一層深刻に)現実というリアリティそのものです。反対に、未来の数値は、それがずっと先の遠ければ遠い数値ほど、リアリティの反対、「夢」になってしまいます。

距離空間から言っても、月の世界の話にはリアリティはありません。このように、ある意味で時空間上の距離とリアリティというものは反比例しているようにも見えます。

ネットの向こうの世界を、私はモニターの中の、もう一つのリアルランド(現実世界)と言う意味で「アナザーランド」と呼んでいます。

この「アナザーランド」では、2050年頃にはコンピュータが生成したドクターや教師が、一見、実在するがごとくの姿でモニターに現れ、私たちは、彼らと当たり前に会話し、メディカルチェックや講義を受けることが出来るようになっています。SFのようですが、もしこれが実現したとしたら、私たちにとってモニターの中のドクターや教師の存在はリアリティそのものです。

2004年という現実の世界でも、インターネットを通してモニターの中の世界に、上記のような時空間の存在を見いだしていて、既にこの中で、起きている時間の何割か「生活」していると言えると考えているわけです。

syulenさんのインターネットを生活の場に出来るか?に出てくる「生活」と、アプローチの方法は異なるものの全く同じ意味と捉えることができます。

ひょっとすると、この「アナザーランド」の1日の滞在時間とリアリティも、正比例しているのかも知れません。 KAI

May 19, 2004

ダイレクトマーケティングの黄金方程式(続き)

ダイレクトマーケティングの黄金方程式をそれらしく書くと以下のようになります。

■新規(モール)+リピート(自社サイト)=売上増大

消費者は、モールで買い物をしても、お店の名前はちゃんと覚えています。2回目にモールに来た時、以前買ったお店は気になるものですから、一度は訪れます。そこでリピート向けのキャンペーンがあれば当然何らかの反応が見込めます。そのリピートのキャンペーンは、実は自社サイトの中だったりします。なぜモールの中の店舗ではなく、自社サイトなのか。

これは例えばポイントサービスを考えると理解しやすくなります。

モールの中でのポイントサービスは、全店共通と言うこともあり、せいぜい1%か2%です。しかも自分のお店のお客様だけのサービスを設定することは出来ません。しかし、これが自社サイトなら何でもありです。もしリピート客は15%というキャンペーンができれば、リピートの注文は間違いありません。

こういった仕掛けを実現する手段として、モールのASPサービス+自社サイトのASPサービスの多層化という共通化が強力な武器になることは明白です。

モールでの宣伝効果と新規顧客の獲得

前回、新規客の獲得のためにはモールで広告をやらなきゃ意味がないと書きましたが、もう少し、具体的に説明します。

一般的なモールの1店舗あたりの月間の売上は、比較的好調なお店で2千万前後ではないかと思われます。これをちまたのコンビニの売り上げと比べてみますと、先月発表のJFAコンビニエンスストア統計調査月報によれば、全国4万弱あるコンビニの1店舗当たりの売上が2004年3月で1千500万円強とのことです。あくまで全国平均ですので、売れているお店はこの倍以上の売上はあると思われますが、今やモールでの売上がコンビニの売上に引けを取らない規模にまで成長していると言えます。

購買単価は、コンビニよりもモールの方が高いと思われますから、例えば5千円とすると、月間数千人の顧客を獲得していることになります。もちろん全てが新規客でないものの新規客が大半を占めているのは間違いないでしょう。

もちろん、これだけの顧客が何もしないで集まるわけがありません。各店舗毎に、売上の10%とか15%とかのキャンペーン費用を掛けているからです。JADMAのレポートによれば一般的な通販会社では大体20%前後の広告宣伝費をかけていますから、一般の広告に比べれば広告効率はかなり高いと言えます。

この理由は明かです。一般のマス広告と違って、購買を目的に来店する人への広告だからです。

つまり、結論を申し上げれば、モールというものは広告費用をしっかり負担すれば必ずそれに見合う売上と顧客を獲得できる構造になっているということです。(なんだかモールの宣伝マンモードですが)

この新規客を自社サイトでリピート客として大事に育てていくことで、売上が倍々ゲームで増えていく様子は、以下のシミュレーションでお分かりいただけるものと思います。

■リピートなしの場合
2004.04 売上2000万円(新規客4000人×5000円)
2004.05 売上2250万円(新規客4500人×5000円)
2004.06 売上2500万円(新規客5000人×5000円)
2004.07 売上2750万円(新規客5500人×5000円)
2004.08 売上3000万円(新規客6000人×5000円)
2004.09 売上3250万円(新規客6500人×5000円)
2004.10 売上3500万円(新規客7000人×5000円)
2004.11 売上3750万円(新規客7500人×5000円)
2004.12 売上4000万円(新規客8000人×5000円)
2005.01 売上4250万円(新規客8500人×5000円)
2005.02 売上4500万円(新規客9000人×5000円)
2005.03 売上4750万円(新規客9500人×5000円)

■リピートありの場合(リピート率年間96%・・・1/3の新規客が年間3回購入)
2004.04 売上2160万円(新規客4000人×5000円、リピート320人×5000円)
2004.05 売上2590万円(新規客4500人×5000円、リピート680人×5000円)
2004.06 売上3040万円(新規客5000人×5000円、リピート1080人×5000円)
2004.07 売上3510万円(新規客5500人×5000円、リピート1520人×5000円)
2004.08 売上4000万円(新規客6000人×5000円、リピート2000人×5000円)
2004.09 売上4510万円(新規客6500人×5000円、リピート2520人×5000円)
2004.10 売上5040万円(新規客7000人×5000円、リピート3080人×5000円)
2004.11 売上5590万円(新規客7500人×5000円、リピート3680人×5000円)
2004.12 売上6160万円(新規客8000人×5000円、リピート4320人×5000円)
2005.01 売上6750万円(新規客8500人×5000円、リピート5000人×5000円)
2005.02 売上7360万円(新規客9000人×5000円、リピート5720人×5000円)
2005.03 売上7990万円(新規客9500人×5000円、リピート6480人×5000円)

1年後には新規とリピートの売上がほぼ同じになりますが、利益率で見ると、新規客の獲得費用のかからないリピート売上が高くなるのは当然の話です。 KAI

May 18, 2004

ダイレクトマーケティングの黄金方程式

今回は、ECサイトでの買い物とは一体どういうものなのか、概念整理をします。

ECサイトの検索エンジンとして前回はアラジンを取り上げましたが、価格.comというECサイト用検索エンジンの方が消費者に取ればより利用されていると思われます。

こちらを利用する目的の中心は、名前の通り、価格の比較です。アラジンのカテゴリ検索+価格の比較です。更に口コミ情報という強力な商品情報も参照されます。しかし、こちらのカテゴリには健康食品や化粧品と言ったカテゴリが存在しません。これは、これらのカテゴリが価格の比較という目的にそぐわない内容であるためと言えます。

口コミ情報だけならアットコスメも有名ですが、こちらはEC用検索エンジンと言うより情報系サイトと言った方が良いでしょう。

消費者は、モールにしろ、検索エンジンにしろ、情報系サイトにしろ、買い物の目的に合わせて行き先を選んでいます。行った先が、モールの中であろうと自社サイトであろうと消費者に取れば知ったことではありません。じゃあ、それでいいじゃないか、と言われそうですが、それでは困るのです。お店側からすればどうすれば沢山の人に来店して頂き、最終的に売上を極大化させるかが、最も重要なことです。

(この先の話の概念はダイレクトマーケティング考に書いていますので参考にしてください)

通販会社の売り上げを上げる基本的要件は、リピートの獲得です。

新規の売り上げをいくら獲得してもリピートがなければ最終的な売り上げの確保は不可能です。つまり以下の2段階をいかに制するかが、ネット(オン)通販(つまりはダイレクトマーケティング)の要諦になります。

■新規顧客をいかに獲得するか

■リピート注文をいかに獲得するか

1番目はある意味で簡単です。宣伝、コマーシャルを使えば良いだけです。

オーバーチュアのような検索エンジン系もあれば、情報系サイトに広告をぶつと言う手もあります。しかし、一番効果があるのがモールでのメールによるキャンペーンも含めた広告です。

モールでのキャンペーンがなぜ効果があるか、きわめて簡単な理由です。

もしあなたが横浜のラーメン博物館へ行くとするじゃないですか。ここでのぼりが立っている店と、のれんが出てるかどうかわからない店とどちらに入りますか?答えは明らかでしょう。実はモールのメリットとはこれ(だけ)なのです。モールに出店して、広告には参加しないというお店もありますが、単にお店の設備を利用する目的ならさっさと退店してもっと割安なASPサービスを利用すべきです。

さて、リピートの獲得、ではどうでしょうか。

そういう意味ではモールは逆効果になることが一目瞭然でしょう。競合商品と言う誘惑が、モールには満載だからです。

で、理想的なリピートのシナリオとは、「モールで顧客獲得→自社サイトでのリピートの注文」につきます。これがダイレクトマーケティングの黄金方程式です。

しかし消費者は気まぐれです。いくら新規客への納品書に自社サイトを案内しても、またモールに来ます。この時に意味を持つのが自社サイトへの誘導です。2番目の要諦であるリピート注文の確保のためには、モールから自社サイトへの誘導が必須です。これが普通のモールでは、他社のコマーシャルの餌食になって不可能なのです。

既に理解していただけたと思いますが、この黄金方程式とASPのメタ化というのは、実は直結しているということを、次回以降説明します。 KAI

May 17, 2004

EC市場の成長とASPサービスのメタ化

ここ3、4年投資家の人たちにずっと言ってきたのが、ECの取引量自体は指数関数的に伸びており、単に落ち込んでいるのはECの取引量ではなくECへの投資額の一部にすぎない、ということです。

梅田さんのBlogバブル期の予測通りに成長していた米EC市場でいみじくもECの取引量の伸びについてはこの指摘が正しかったことが証明されたことになります。

英Economist誌最新号のサーベイ特集・・・(によれば)バブル絶頂期にECについて出た強気強気の市場予測データがたくさんあったが、バブル崩壊から4年が経過した今、実は当時の予測通りに(せいぜい1年程度の遅れで)、ECは堅実に成長している、ということだ。

まあ投資家からすれば、97年頃から99年にかけてECのインフラになりそうな仕掛けの企業に対して投資済みで、本来はECの取引額の増加に比例してこれらの投資先企業の業績が急拡大するはずが、全くこれが期待はずれでは、EC取引額の伸びなどどうでもいいとなるのでしょうが。しかし、逆に考えれば、予想通りの成長市場ということは、まだまだ可能性が残っていると言うことでもあり、ターゲット市場という側面だけを見ても当社への投資の正当性が証明されていると言うことです(我田引水的結論(笑))。

モールというASPサービスのメタ化とは

さて前回の話題の続きです。

そもそも冒頭のEC取引をフロントで支えているのがECサイトであり、ECサイトとはショッピングモールであったり自社ドメインのサイトであったりするという話の続きで、今回のビッダーズのサービスは、これらのECサイトの可用性を大きく拡張できる可能性を秘めたサービスだということです。

本来のネット上での買い物というものは、そのお店がどこにあるかは全く関係なく、ある意味で、ネット上の仮想の空間上を自由に往来してウインドウショッピングをしたり、目的の商品を探したりして行うものです。

この仮想の空間上で、自分の目的の商品を見つけるという場合、楽天などのモールと並んで今最も利用されているのが検索エンジンです。Googleなど検索エンジンに商品名を入れて検索します。ただこの方法は、モールでの検索に比べてECに絞りきれないと言う欠点があります。それを補う形の検索エンジンがアラジンという検索エンジンです。

このアラジンを利用すれば一通りの商品を探すことが出来、その上、カテゴリ別の検索も可能になります。ただアラジンはあくまで検索エンジンであってお店の実体は、リンク先のサイトになります。

これに対して、ビッダーズのサービスは、モールとしてお店の実体を保持しつつ、自社サイトもASPサービスという形でお店の商品を一元化することでアラジン同様の「自社サイトのカテゴリ検索」もサポートすることになり、モールと自社サイトの自由自在の往来という「消費者の本来のニーズ」にかなうものになっています。(そういったメニューがサポートされるという前提です)

これは、もう少し別の言い方をすると、モールというASPの上に自社サイトのASPをのっけるということでもあり、正にASPのメタ化(多層化)現象であると言えます。

似たようなものに、アマゾンなどのASPサービス(アフィリエイト)もありますが、ASPのメタ化という意味でこれは本質的に異なるサービスになります。

それでは、こういった仮想の空間での買い物が、具体的にどういった動きになっていくのか、次回以降に述べたいと思います。 KAI

May 14, 2004

ショッピングモールというASPのメタ化現象

CNETの記事の話題です。

ビッダーズ、通販サイト構築支援サービスの提供を開始によると、ビッダーズは、ビッダーズのショッピングモールのデータベースと自社ショッピングサイト用のデータベースを共用できるようにするサービスを始めるようです。

DeNAコマース・エンジンでは、ショップが自社ドメインのウェブサイトでビッダーズの各種機能を利用できる。また、自社ドメインとビッダーズ双方の在庫/受注/出品のデータベースが一元化されるので、「(両サイトを)個別管理する場合に比べ、手間が少ない」(同社)。

現在、コマースサイトを立ち上げようとすると、大きく分けて楽天を初めとした大手ショッピングモールに参加する方法と、自社のドメイン上にECサイトを立ち上げる方法と、いずれかになります。

モールの場合は、ショッピングバスケット機能や商品の登録機能などは、すべて最初からそろっていますので簡単にお店を開くことが出来ます。これに対して自社ドメインの場合は、バスケット機能などをすべて自分で準備する必要があります。ただ、この場合、モールでの出店と違って、様々な制約を受けないでネットショップを構築できるメリットがあります。実際は自社ドメインのショップを開設している企業の多くは、自社で何もかも用意するのではなく、今回のビッダーズのようなサイト立ち上げ用のASPサービスを利用しています。

モールの集客力のメリットと自社サイトの自由度のメリットの両方を狙って、大半の企業が、モール(それも複数)と同時に自社サイトという形で、いくつものショップを運営しています。

この時に問題になるのが、商品の登録を初めとした作業をそれぞれのショップ毎にやる必要があり、大変な手間暇がかかります。これをビッダーズのエンジンで、モールと自社サイトを一元管理できるようにしようとするものです。

しかし、これだけでは、失礼ながら、あまり恩恵もなさそうですが、実はそうでもないのです。

大手モールである楽天は、モール内の店舗から自社サイトへの誘導を一切禁止しています。これは自社サイトの存在そのものを認めないと言う考え方と言っても言い過ぎではないでしょう。これに対してビッダーズは誘導可能な上、データベースも一元化しましょうと来たわけです。

リアルの店舗で考えれば簡単なことですが、デパート(モール)に出店している会社が、別のところに自社店舗を開くなど、当たり前のことです。それが楽天では出来ないというか、認めないのです。

消費者の立場から見ると、これはどうでしょう。

商品だけで選ぶ場合はいいのですが、名前を知らない会社の商品を選ぼうとすると、どうしてもその会社のサイトへ飛びたくなります。これができません。仕方がないので会社名をGoogleにコピーペーストして検索を掛けるしかありません。これでは非常に手間がかかります。

これがビッダーズでは、ホームページへの誘導はもちろん、ホームページへ行った先で同じように買い物ができる。つまり、デパートであるモール自体の機能をASP化させるというサービスととらえることができます。

インターネットは、本当にすばらしい。

ASPのASP化。一体どこまでサービスが進化するか、1日たりとも目が離せません。

このASPサービスのメタ化については次回に論じます。 KAI

May 13, 2004

ビジネスショウにて

2回目のパネラーで発言してきました。(私は耳が悪いので会場一杯の大音量でご迷惑をおかけしたようです、ごめんなさい)

その席で、4億円のエンジェルの話をしましたが、当社はこのエンジェルが、私の「夢」を実現するために4億円というお金を出して支えてくれている会社です。詳しい話は、アプリケーションの開発経緯について、そのうちこのBlogで触れていくつもりです。お楽しみに。

今回、そうそうたる企業の社長と一緒に議論できたことは、私自身としてほんとうに有意義でした。

いままで、IT業界というのは人月商売の世界で、はっきり言って距離をおいてきました。今回もこれは一貫して変わりませんが、この間隙を縫って、見事に経営されている経営者の言葉には重みがありました。

「こころざし」という言葉が私は好きです。馬刺しと同じように、こころを刺しで喰らうというのがすごいと思います。

志こそ、今、夢を共感して、実現できる方法だと思うのですが、いかがでしょうか? KAI

May 12, 2004

CNETのマンネリ

表題のとおり、ここ1、2週間ですが、CNETのBlogがつまらない。

これはかなり独断ですが、井上さんのBlog上のトラブルが明示的にも暗示的にも著作者のモチベーションを引き下げていることが根本の原因ではないかと邪推しています。

今回の井上さんのBlogの内容について、一体どこが問題なのか、まったく理解できません。

CNETのBlogが公かどうかに関係なく、井上さんのBlogを読んで件のレイティング会社と取引を止める、あるいは取引予定を中止する会社など、ただの1社もないと思います。

「インターネット視聴率とは使えるデータなのか」を例えば、
「Googleとは使えるサーチエンジンなのか」とか
「ヤフーオークションとは使えるオークションなのか」とかに
置き換えて、その問題点、疑問を提示した場合、Googleとかヤフーオークションを否定しているとなるのでしょうか。

むしろ、こういった指摘こそまったく別の視点でサービスの内容を考える絶好の契機となると思うのですが。こういった形のまるで言論封殺のような状況こそ非常に危惧を感じます。 KAI

(5/13 内容を一部書き換えました)

May 11, 2004

IT産業を語る−ビジネスショウにて

本日と明後日、ビジネスショウでしゃべります(「オープンシステム アライアンス・コラボレーションコーナー」)。本日は、先ほどやってきました。久しぶりに若い人たちに混ざって議論するのは楽しいものです。

本日の議論のポイントは、詰まるところ、技術者のレベルにつきます。

若い技術者はもちろん、旧い技術者を含めて、どう覚醒させるかが当面の課題であることを理解しました。同時に、この若い技術者(旧い技術者も含めて)に、このITという仕事を、自らのライフワークとしていかに意味があって、モチベーションを持ってやるべき仕事であるか、ということを伝達するかです。しかしながらこの手段を、今持ち合わせていないもどかしさも痛感しました。

勝てば官軍という言葉があります。

今、絶対に必要なのは勝つことです。

その意味で明後日の議論では、経営という視点で勝つことがすべてだと言う時の「技術者のレベル」の議論をやりたいと思います。グーグルが史上最大のIPOができるのも、今という時点で技術として彼ら以外には実現できないオンリーワンの技術を持っているからだと思います。

サーチエンジンという、世界中の頭脳がしのぎを削る中で勝ち抜いていくことも大事ですが、どんな小さな市場でもいいから、そこでナンバーワンになるということだという思いを、今日は新たにした次第です。 KAI

May 10, 2004

IT業界に未来はあるのか

今週は、ビジネスショウの、UBAのフォーラム「オープンシステム アライアンス・コラボレーションコーナー」にパネラーとして参加します。

その準備も兼ねての議論です。

IT業界に未来はあるのか−少々刺激的な題ですが、日本のIT業界に限って言えば未来はないと思っています。世界に拡げれば、無限の可能性がまだまだあると思います。そもそもIT業界って何かと問えば、コンピュータをとりまくハード、ソフト、サービスをビジネスにしている業界だと思いますが、逆にITを利用していない業界は、あったとしてもほんの数えるほどしかないでしょう。

日本のIT業界の特殊性の議論にあまり意味はないと思いますので、ここでは取り上げません。

世界のITの流れの本質は、インターネットで互いに接続されたアプリケーションとコンテンツが、いかに人々の生活や考え方を変えていくかであり、その変化のフィードバックが、再びITの流れを生み出していくというポジティブスパイラルの構造にあると考えます。

従来の微分化された技術としてのアプリケーションではなく、積分され、より高次元のアプリケーションが、われわれの生活レベルに浸透し始め、ビジネスはもちろん生活そのものがアプリケーションを不可欠のものとして受け入れていくことでしょう。

この、社会を支える技術こそITであり、IT業界の未来だと思うのです。

これを、車社会を例えに考えてみましょう。

今、車のない社会を想像することは不可能です。鉄道を無視すれば、どこどこへ行こうと言った場合、移動時間は車で何分です。徒歩何分は駅からの距離にしか使いません。

これは何を意味しているかというと、私たちの時間軸というものに今や車というものがアプリオリに組み込まれており、無意識に車という「アプリケーション」を前提に生活していると言うことです。ただ、人々がこういった生活をする上で車そのものに関心を持つことはあっても、車業界のことには全く意識を働かせることはありません。

ITも全く同様のことが成り立ちます。

ITにより供給されるアプリケーション(サービス)やコンテンツがよりリアリティを持って普通の社会のインフラの一部となって、私たちの生活を支えていく。そこでは、大都会で次々と生み出される高層ビルがごとく、ダイナミズムに満ちた開発が繰り広げられるのです。

当然こういった開発を支える技術も進化しより高度化していくことは間違いありません。

まさに、IT業界の未来はあるのかどうか疑うどころか、バラ色そのものだと、思いませんか。 KAI

May 07, 2004

64ビットマシンの世界

CNETの記事にビル・ゲイツ、64ビット版ソフトのサポートを呼びかけと題して64ビット化への見通しの記事が載っています。

シアトル発--Microsoft会長のBill Gatesによると、デスクトップにおける64ビットコンピューティングへのシフトが間近に迫っているという。

Advanced Micro Devices製のプロセッサは来年末までにほぼ全て64ビットとなり、またその頃出荷されるIntelチップの大半も64ビット対応となるだろう、とGatesは語った。

64ビットマシンでテラバイトのメモリー空間が自由に使えるようになると、アプリケーションの動作環境も一変します。

ストレージ→メモリー→CPUの順でテラバイト化が進んで来ることで、何が起こるのかというと、従来ストレージを占めていた動画コンテンツや大容量のデータベースが、入出力という動作を意識することなくアプリケーションの中に侵入を始め、その結果、インターフェイスはもちろんアプリケーション自体が動画ベースになって、更に、進化したデータベースである様々な知識データベース(これを専門に供給する会社が現れる)をアプリケーションが内包してこれを駆使した、今までには全くないタイプのアプリケーションが出現すると考えています。

具体的にはどんなアプリケーションかは、今の段階では申し上げにくいのですが、こういったアプリケーションの開発環境も激変すると思われます。

今までの開発環境を、例えて言えば、劇場用の映画の制作現場とすれば、新しい開発環境は、生番組中心でその中で多用される情報映像の制作現場と言えます。一からシナリオを考えて制作していくのではなく、膨大な量の情報映像の上に、それを利用しながら、新しい映像を積み上げて行くと言ったイメージです。

更に、これに通信のテラバイト化が加わると、以上のアプリケーションはすべてASP化され、開発環境までもがASPを利用するようになると思います。逆にASP化しないと開発できない状況に変わっていくのではないでしょうか。 KAI

May 05, 2004

アプリケーションの設計技法2

私は、かなり早い段階から、アプリケーションはすべて表で記述できることに気づいていました。

この表というのは、データベースとしてのテーブルという意味だけではなく、画面そのものも表で記述できるということです。画面のメニュー自体も表の一種であるリストで記述できます。

実は、このことはデータオリエンティッドを通り越して、すでにオブジェクトオリエンティッドの設計方法の世界に入っていたのですが、後になって世の中でOMTと言われるまで概念的に整理できないでいました。

ですから、初期の段階では、この設計方法をテーブル(データ)オリエンティッドの設計技法と位置づけ、定式化を試みました。

さすがに、これを汎用機でやるわけには行きませんでしたが、MS-DOS上で新たに開発するアプリケーションに適用することができました。

この作業を通して、業務そのものをオブジェクト単位で記述する方法を開発し、このオブジェクトをコンピュータリソースの中でどのように配置すればいいか、また、オブジェクト間の関係をどう記述すればスムーズな業務の流れを記述できるのかを学ぶことができました。

特に、オブジェクトの配置に関しては、最適環境とは−昨日のエントリーの補足の中で、

■CPU+メモリー+ストレージ+通信

これは最適環境のパラメタです。

この4つのパラメタの性能の違いによってその時代の最適環境が生成され、そこに最適解であるアプリケーションが産まれるという概念です。

と書いた背景に、この問題認識があります。 KAI

May 04, 2004

アプリケーションの設計技法1

私が、アプリケーションの設計技法を考えるようになったのは、まったくのピッカピカの新人時代です。新入社員研修のフローチャート研修という、最初の最初でした。テンプレートという定規を支給され、これを使ってプログラムの流れ図、いわゆるフローチャートの書き方の研修が始まりました。今から30年近く前です。いや歳をとりました。

実際にフローチャートと言われるものを書いて見ればわかりますが、こんなものは、まったく人間の思考という飛行を、10KGの鉄アレイをつけてやりなさいというようなもので、使い物にならないということを直感しました。

以来、私は、フローチャートは、情報処理の試験以外、書いたことがありません。

替わりに何を書いていたかというと、その当時Nさんという上司の技術者に教わった、フリーチャートでした。

このフリーチャートというのはどういうものかというと、フローチャートと違ってテンプレートを使いません。すべてフリーハンドです。だからフリーチャートと言ったと思いますが、要は、記号と記述を分離して電気の回路図と同じように、線と○と▽という記号だけで記述し、その内容はそれぞれの記号の横に記述する方法でした。

これであれば、まずテンプレートは不要ですべてフリーハンドで書けます。

これを1年間くらいやるうち、PADやHCPチャートと呼ばれる構造化の記法が広まってきました。しかし前者はフローチャートと同じようにテンプレートが必要ですし、後者はフリーチャートと何ら違いがありませんでした。

ここで開発したのが、現在も使用しているアルゴリズムを記述する記法である「オープンチャート」です。

オープンチャートをテーマに、当時、特殊情報処理技術者試験の論文を書きました。これがある意味で、私のアプリケーションの設計技法の原点です。人に教わった技法ではなく自ら編み出した技法です。

この技法を元に、次々とアプリケーションのGOFならぬアルゴリズムの基本的なパターンを整理し、新しいプロジェクトに適用して、その精度を高めていきました。

この過程で、必然的に出てきたのがデータオリエンティッドの設計技法です。 KAI

May 03, 2004

アプリケーションを設計すると言うこと

連休中だと言うのに(いや、連休中だからこそ)、朝から会社に出てきて、新しい機能の設計に没頭しています。こうしている時間が、世の中で一番至福の時間だというのは、梅田さんの年を取ってから後悔しない人生デザインに書いてある通りです。

普段、私はB4サイズの原稿を収納できる書類ケースを毎日持ち歩いていますが、その中には、10種類以上の設計中のアプリケーションの仕様書が入っています。

一つ一つが未完了で、途中までしか記述されていません。

これを行く先々で開くのかと言えばそうではなく、ある日、突然、解決方法が見つかることがあって、それは自宅の場合もあるし、バーのカウンターの夢の中であったりするのですが、その時に必要になるからです。

一つのアプリケーション(の一部の機能)を設計する作業は、私の場合、すべて頭の中で行います。

この作業を人に説明するときによく使うのが、無重力空間に立体ジグソーパズルのピースが浮いていて、ある時突然全てがうまく組み合わさって、パズルが完成する、そう言った感覚です。

ですので、一度に、何種類ものパズルを頭の中に浮かべておくのは大変で、実際には、今は一つしか浮かべていません。作業を行うときに集中して思い浮かべるのですが、ピースの数が多いパズルほど、頭の中で展開するまで時間がかかります。ですからこういった連休中が、一番考え事をするのには最適なのです。

ところが、そうはうまく行かないのです。

全てがうまく組み合わさるという感覚がないと、全く一歩も前に進みません。

仕方がないのでこうやってBlogを書いているという、言い訳ですが(笑)。

ジグソーパズルが組み合わさるという感覚も、単に空間的に、と言うよりは、時空間上で、それぞれが繋がって、データや論理という水の流れが全てうまく流れていくと言った方がより適切です。

私は常々、ソフトウェアの世界は職人の世界ではなく工学(エンジニアリング)の世界だ、と言ってきましたが、果たして、今私のやっている作業を若い技術者に伝える方法があるのか、はなはだ疑問に思います。が、いつかはそれをやれるようにしたいという夢は捨てていません。

これをやるために、今の時点では、例えばUMLと言った方法では厳密すぎるのです。

もう少しフリーハンドで、ラフで、しかし、精密な記述が出来る言語があればいいのですが。先日、NHKだったかの番組でアイデアを記述するための言語システムの開発を紹介していましたが、これも候補かも知れません。 KAI

May 01, 2004

「システム」と「ツール」続き

もう少し「システム」と「ツール」の話を続けます。

丁度CNETに梅田さんのゲストブロガー石黒邦宏さんが、100万行のソフトの作り方(1)(2)を書いています。

100万行、業界用語?で1000K。(20年以上前のことでかなり記憶が不確かですが、銀行のオンラインシステムが3000K程度だったと思います。これを大体300人位の体制で開発していたと思いますので、石黒さん達の体制を45人と仮定すると丁度生産性が2倍程度向上していることになります。)

今まともなアプリケーションシステムを作ろうと思えば、この100万行程度のコードが必要です。

これを昔の銀行システムのように、一から設計して、2年後に完成してみなければ最終形が見えないのではなく、石黒さんが書いているように、

「エンジニアはひたすら開発を行ないます。そして、開発したコードはエンジニア相互のレビューに廻されます。相互チェックシステムというわけです。ソースコード管理は今ならフリーソフトのCVSを使うか、お金に余裕がある場合は商用のソースコード管理ソフトであるクリアケースを使うのが一般的でしょう。

毎日タグと呼ばれる印をつけて(これはいつでも過去の状態に戻せるようにするため)、デイリービルドを作成し、テストに廻します。このサイクルはほぼ毎日行なわれます。」

日次単位で完成品を更新していく方法で、日々実現されるべき機能を目で実際に確認しながら開発していく手法こそ、アプリケーションオリエンティッドの設計に直接つながるきわめて重要な方法です。ツールや部品をいかに組み合わせたり応用していくかを考えて設計するのではなく、直接実現されるべき機能を目の前に用意して、これをそのままリファインさせていけばいい。

そこで実現されるものは、量が質を生むがごとく、100万ステップを越える毎に質的な変化が起こり、その使いやすさは格段に向上します。

過去のシステムに比べて、今のシステムのほうが格段に使いやすいのは、コンピュータの能力の進歩に裏付けられた圧倒的なコード量の違いから来ているのは明らかです。 KAI