この未曾有の金融危機にあって、過去の経験の、いったい何に学ぶべきか。これを学ぶべきは他の誰でもない、いまこの危機の当事者以外にはありません。
彼らが今最も学ぶべきこととは、それは「職分を知る」です。「職分を知る」ことこそいまあるすべての問題の解決となるのです。
「職分を知る」とは、何か。諭吉の学問のすすめからの引用です。
学問とは広き言葉にて、無形の学問もあり、有形の学問もあり。心学、神学、理学等は形なき学問なり。天文、地理、窮理、化学等は形ある学問なり。何れにても皆知識見聞の領分を広くして、物事の道理を弁え、人たる者の職分を知ることなり。
(学問のすすめ 二編 端書(はしがき))
さらりと現れた一文の中に、この今最も重要な考え、「職分」があります。「職分」とは、職の道理、倫理、すなわち職の矜持のことです。
世の中のいかなる仕事にも、それに携わる者が持つべき、世の中に対するその仕事の意味、すなわちいかに社会のためになっているのかの心構えと言うものが、あります。それは、仕事とは、社会と言うシステムを利用することを許されて初めて成り立つものであり、反社会的な仕事が、このシステムに受け入れられないことからも、自明です。
金融一般に携わる者の「職分」とは、何か。
それは、「人を助けること」以外、ありえません。
いかなる仕組みを導入しようが、それはかまいません。それによって、「人を助ける」ことができるなら、その仕事の意味は、あります。今、この金融危機の当事者である者たちが、この原点に立ち返らない限り、あなたがたを誰も許すことはありません。
世の中からいかなる評価を受けようとも、この世の中のすべての仕事において、これは真実です。今一度、職業人が、立ち返るべき原点が、ここにあります。 KAI