まさか、突風にすってんずりり、しようとは夢にも思わなかった。
春霞に今ひとつ目がよく見えないまま、テニスを始めて4ゲーム目。風下の相手の打った球が、風に押されて力なくKAIの目の前に落ちる。フォークボールに前のめりになる打者のように一瞬、KAIの重心がつま先のその先に移動する。
瞬間、足を前に出そうとしたその時、突風がKAIの背中を押した。
あえなくつんのめって、膝と肘をみごとに擦りむいた。
行き帰りの車の中でも、風で何度か車のハンドルを取られるくらいだから、今日の風はタチが悪い。
こんなことはテニス人生、まったく初めてであるのはもちろんのこと、人生風に背中を押されて倒れるなんて、まったく初めての経験です。
すぐ水道水で傷口を洗い、そのままゲームを再開するも、膝と肘の皮が張ってなんだかロボットのように動きがギクシャクしてゲームにならない。ずるずると2連敗のあと、最後に1勝してなんとか体裁は保った。
それにしても、風に背中を押されて倒れる瞬間の感覚。
高校生の時、新任の柔道四段の先生と初めて組んだ、その瞬間足払いをくらった。あのときの感覚と同じだった。まるで空気のようにかるがると身体が倒れる。
しかし子どものころと違って、大人が倒れるのは、痛い。
大事の前の小事。いまの油断を、この痛みが教えてくれました。 KAI