最近はほとんど流し読みの日経ビジネスですが、年に1、2回非常に興味深い記事に出会うことがあります。今週がその当たり号(日経ビジネス、2006/9/4)でした。それも二つの記事が。
一つ目。9月1日付でソフトバンクモバイル(10月1日変更)の執行役副社長技術統括兼CSO(最高戦略責任者)に就任した松本徹三氏の、この就任前のインタビュー記事。
ソフトバンクグループでの仕事はこれからですが、個人的には今後次の4つのキーワードが戦略のカギを握ると考えています。携帯電話と放送サービスなどが連携する「メディアの融合」、おサイフケータイに代表される「電子マネーの流通」、携帯電話を使って遠隔地のサーバーなどの情報を活用する「シンクライアント」、そして最近話題になっているインターネット技術の新潮流「Web2.0」です。(ソフトバンク携帯に新参謀 米クアルコムから転出の松本氏が語る真意、p.16)
孫正義の才能は、この松本氏や直近の北尾氏に至る、その時々の彼の思う戦略を戦術化できる参謀たる人物を、味方にする能力です。
この松本氏の4つのキーワードは、実はKAIが以前のエントリーパソコンの未来に書いたことを、ケータイ側から表現した、そのものであるのです。
孫正義の、運の強さを感じざるを得ません。
二つ目が、竹中平蔵の寄稿論文。
成長率・金利論争が1つの区切りを迎えたのが3月16日の諮問会議だった。会議の事務局である官僚が素案を作ったと思われる民間議員の提案として、今後の財政健全化シナリオを議論するに当たって名目成長率3%、金利4%の場合を「基本ケース」として考えるという内容が提示された。明らかに将来の増税幅が大きくなるという結果を引き出すための設定であり、財政当局のバイアスを感じざるを得なかった。
筆者はこれに強く反論した。「基本ケース」など無理に設定せず、複数ケースを並列して議論すべきと主張した。議論が膠着した段階で、議長である小泉純一郎首相が厳しい口調で発言した。
「複数ケースでいい。最終的には政治判断だから。決め打ちする必要はないし、これが基本だという必要もない。複数を提示して、最後は政治が判断する}(消費税引き上げに待った 「低負担・高成長」か「高負担・低成長」の分かれ道、p.126)
竹中のおかげで談合柳沢の闇から、やっと日本は危機を脱したのですが、依然この抵抗勢力が跋扈する様に、変わりありません。安倍政権の命運はこの柳沢と竹中のどちらを重用するかにかかっていて、もちろん後者以外は考えたくもありませんが。
それにしても、小泉の運の強さです。2001年まで(以降も)テレビに登場する経済評論家、経済学者、政治家でまともな議論ができるのが竹中一人であった中で、まさかこの竹中を大臣に起用するとは。2002年のりそなショックの時KAIの周りの経済通と称する方々もKAI以外の誰一人竹中を評価するものはいませんでした。榊原英資にいたってはペーパードライバーと揶揄し、これをのちのサンプロで中川秀に「あの人の言うことはあたりませんから」と公然と切り捨てられ、溜飲を下ろしたのは言うまでもありません。
一つ目の記事の松本氏とこの竹中には、共通するものがあります。
それは、上記論文中に出てくる次の記述に垣間見えます。
経済成長の議論に関して、日本の現状は、ある意味で10年前の米国経済に似ている。当時、米国ではしきりに「ニューエコノミー」という言葉が使われた。それまで2%台半ばと考えられていた米国の潜在成長率が、実はそれよりはるかに高くなっているのではないか、との問題提起であった。
2001年、経済財政担当大臣に就いた直後に筆者はワシントンを訪れ、当時のCEA委員長のハバード氏や大統領補佐官リンゼー氏と、この問題を議論した。彼らは1990年代後半以降、米国の潜在成長率が3%ないし3%半ばに上昇したことについて、既に専門家の間で合意が形成されたと述べた。(同、p.126-127)
つまり、極めて精力的に勉強して、調査し、議論をし、考え、検証して、最終的なものごとの本筋に至る、その本筋を見通す力を持っている人物であると言うことです。そうではない人間が大半であると言うのは先に「2001年まで(以降も)テレビに登場する経済評論家、経済学者、政治家でまともな議論ができるのが竹中一人であった」と述べたとおりです。これは松本氏についてはあくまで想像ですが、ケータイの本筋を見通す力を持っている人物であることは間違いありません。 KAI