SWIFTと聞いて、これがなにかすぐ反応できる方は、筆者同様のご苦労を経験されているはずです。SWIFT(スウィフト)とはSociety for Worldwide Interbank Financial Telecommunicationの略で、海外の銀行間の送金ネットワークのことです。筆者の会社は、現在これを利用して毎月の海外送金を行っています。これがまともにできるようになるまでの、銀行との2ヶ月間にわたるやり取りの話だけで、1週間はここのネタにできますが、今回は別の話です。
KAIにとってこのSWIFTとの出会いは、20年以上前の1980年代前半、8ビットパソコンの利用の拡大とともに始まりました。当時このSWIFTは、この用語の定義する通り銀行自身が利用するネットワークであって、企業がこれを利用するためには、自社の汎用機で作ったMT(磁気テープ)を銀行に持ち込んで、銀行に送金を依頼する以外の方法はありませんでした。
これを日本で初めて、8ビットパソコンを企業に設置し、このパソコン経由電話回線経由のファームバンキング形式で海外送金を依頼できるシステムを企画し販売する銀行が、日本に現れました。たまたまKAIがそのシステム開発を担当することになり、当時の銀行担当者が、中国系アメリカ人のリンダでした。リンダは、日本の通勤ラッシュがいやで朝の6時前には大手町のオフィスに通勤すると言う女性で、当時のKAIにとって、彼女の米国企業流の仕事の進め方がとても新鮮でした。
このシステムの一番の問題は、送金の安全性の確保です。当時の8ビットパソコンと電話回線の通信技術で、いかに送金と言うきわめて高度なセキュリティが要求される業務を実現するかです。しかし、正直KAI側に、これを提案できるだけの技術力はありませんでした。もちろん8ビットアプリケーションとIBMのホスト側をそれぞれどう作り込めばいいか、これはまったく問題ありません。
このセキュリティは結局イギリスで開発されたと言うBB(ブラックボックス)と言う、名前負けしそうな^^;名前の製品を使って解決しました。BBとは簡単に言えば今のルーターで、当時の無手順だった電話回線のデータ伝送を、特殊な暗号化したプロトコルをつかって実現する技術でした。
この銀行の商品は、発売と同時に爆発的に売れ、わかりませんが当時の大蔵省から相当の圧力を受けたはずです。なにせ当時、外資系銀行→邦銀はオンラインどころかMT持込さえ認められず、なんとパンチカード持込みの時代であったのです。
あれから20有余年、時代はWeb2.0。銀行のホームページに行って、ひょいひょいひょいと相手方の銀行名を打ち込んで(ってこれがまたほんとに一苦労なんですが割愛)、金額入れて依頼実行すれば、送金完了。当時苦労して開発した仕掛けが、20年たつとこうなるんだと言う典型的な見本です。岩の間に水を通すがごとく、初期の技術開発は、岩の割れ目を縫うように進んでいきます。これがやがて大きな流れに合流して、最後は本流となって流れていきます。
今から20年後、30年後の姿を見通すためには、この何が技術の本流になるかをよく考える必要があります。暗号化などは個別問題ではなく共通問題であり、これは必ず標準化され、インフラ化されます。その上にあるアプリケーションにこそ技術力としての付加価値があり、この獲得に邁進してきた20年は、間違いではなかったと、今確信しています。
若いソフトウェアの技術者には、ぜひこの視点を忘れないでもらいたいと、切に思っています。 KAI