不確定性原理についての筆者の考えを、以前のエントリーに書きましたが、どうやら80年ぶりにこの不確定性原理の中身が、日本人の手で書き換えられようとしています。(ハイゼンベルクの顕微鏡 不確定性原理は超えられるか、日経BP社、石井 茂、2005/12、p.247)
同書によれば、その日本人、東北大教授の小澤正直が、新しい不等式を導く論文を専門誌に投稿し受理されたのが2003年1月。ハイゼンベルクが論文を書いて受理されたのが1927年3月23日、実に76年ぶりのことです。
小澤の不等式は、次のように記述されます。(p.249)
ε(Q)η(P)+ε(Q)σ(P)+σ(Q)η(P)≧h/4π
ここでε(Q)は位置Qの測定にともなう誤差、η(P)はそれによって生じる運動量の擾乱(じょうらん、disturbance)、σは位置あるいは運動量の標準偏差です。
この小澤の不等式は、従来のハイゼンベルクの不等式である、
ε(Q)η(P)≧h/4π
これと較べると、ε(Q)σ(P)とσ(Q)η(P)の項が追加されています。この項の存在の発見の意味は、物理学的にきわめて大きいです。
物理学を物理学と言う学問たらしめている根拠は、実験、観測であり、測定以外何者でもありません。であるにもかかわらず、この測定について、測定とはなんぞやと言う理解が間違っていないか、はたして物理学史上正しく検証されてきたのか、はなはだ疑問です。
相対性理論について、未だに博士号を持つ物理学者から、相対性理論の矛盾を解く(日本放送出版協会、原田 稔、2004/09)と言ったいわゆる「異論」が出てくるのは、この測定の概念が正しく検証されてこなかったことが原因であると、筆者は考えています。
この測定について、小澤の概念は明解です。系を測定対象系と探針系に分け、探針系は検出器を持ちます。測定とは、測定対象系と探針系の相互作用であり、この相互作用には作用開始と終了が存在し、探針系が示す観測可能量を検出器が読みとるのは、この相互作用の終了直後の探針系の状態であると言うことです。
これに対して、今までの測定の概念は、測定の終了をこの相互作用の終了とせず検出器で読みとるまでとしたのです。この違いが、小澤の不等式の、追加されたε(Q)σ(P)とσ(Q)η(P)の項としてあらわれると、筆者は解釈しています。
しかし、この小澤の測定概念の違いこそ、今後の物理学の発展に、革命的な転回をもたらすのではないかと、筆者は期待してやみません。簡単に言うと同時性がやっと物理学的(実験的)に定義されたのです。量子状態と観測状態は一意ではない、まことにもって真実です。 KAI