December 12, 2005

実業家と虚業家の間の深くて暗い河

松下幸之助も本田宗一郎も井深大も、みんなものづくりに励んだ実業家です。これに対してリクルートを創業しながら戦後最大と言われる構造汚職事件を起こして失脚した江副浩正は、自ら起こした就職情報と言う広告ビジネスを虚業と考えていたそうです。これを虚業ながらより盤石のビジネスにすること、彼の実業と考えるコンピュータビジネス、不動産ビジネスを取り込むことに突き進んだ結果、彼はリクルート事件を起こしたと言われています。

コンピュータビジネスも不動産ビジネスも実業かどうかは直ちに首肯しかねますが、実業と虚業を区別することは簡単です。それは“ものづくり”かどうかです。

del.icio.usがYahoo!Incに買収されたことをきっかけにネットビジネスの方向性に関する議論があちこちで起こっていますが、この議論には実業と虚業と言う観点が不可欠なような気がします。

どう言うことかと言うと、ビジネスには常に実業と虚業の部分があり、このビジネスの企業家がどちらに軸足をおいているかどうかで実業家か虚業家かが決まってくると言うことです。例えば不動産ビジネスでは、次々とビルを建てていくこと自体は実業そのものですが、そこからあがる収益を無視した単なる転売による不動産売買のビジネスは、虚業以外の何者でもありません。今マンション販売で問題を起こしている企業家は明らかに虚業家です。

ネットビジネスにおいても、その仕掛けを構築して最終的に巨大資本に売却することを“あがり”と考える限りそれは虚業であり、虚業家です。

ここで注意しないといけないのは、筆者は、実業家がエライ、虚業家はエラクない、と言っているわけではありません。そうではなく、実業家は実業家として、虚業家は虚業家として、天から与えられた分をわきまえなさいと申し上げているのです。

冒頭にあげた実業家はみな、もちろんものづくりに励みましたが、それを売上に結びつけるための販売に筆舌に尽くしがたい努力してきた人たちであると言うのも、紛れもない事実です。同様に戦後の流通と言う虚業を実業の地位にまで押し上げた中内功は、メーカー指向のものづくりを消費者指向のものづくりへと、戦後のものづくり革命を推進した一番の功労者であると、筆者は考えています。

かように実業家は虚業を、虚業家は実業を、互いに尊重しあい、敬いあう、そう言う関係であるべきだと言うのが筆者の考えです。しかしまた両者は、その間に深くて暗い河のある男と女の関係と同じように、なかなかお互い理解し合うことのない関係なのかもしれません。 KAI

投稿者 : December 12, 2005 02:57 AM | トラックバック
コメント

BenTenさん、コメントありがとうございます。こうしてコメントしてもらえるだけで元気が出ます。

若いエンジニアをどう育てればいいかが、もっかの筆者の関心ごとです。自分の息子も、そろそろ二十歳になり、将来を選択することになります。そのときに父親として、決して自ら心血を注いだ世界をつまらない世界だと思ってほしくない、ただその思いだけで、このBlogを書いています。

Posted by: KAI : December 12, 2005 10:46 PM
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