前回の続きです。
■ソフトセクターとはモノの「機能」を主たる目的として売買する事業を指す■ハードセクターとはモノを売買する事業を指す
この定義によれば、ソフトウェア業界は一応ソフトセクターには分類されるもののその中身をもう少し吟味しておく必要があります。
どういうことかと言うと、ソフトウェア業界で言うところの「機能」とは、大半のソフトウェア企業の売買において、そのままソフトウェアの機能を指しているわけではないと言うことです。
前回の佐和氏の引用の中で彼は、
吉川弘之東大教授は、情報によって受け手に間接的効果を引き起こすものをメッセージ型サービス、直接的効果を引き起こすものをマッサージ型サービスとして、サービス業を二分類することを提唱されている。情報産業と呼ばれるものの多くは、メッセージ型サービス業である。メッセージ型サービスの分野では、コンピュータを中心とする情報処理装置、入出力機器、通信網などの情報伝達装置、人工知能ソフトウェアなど、先端技術の導入がきわめて盛んである。
と、情報産業をメッセージ型サービス業と位置づけていますが、これは間違いです。開発したシステムそのものを使用すること自体は、すなわちユーザーは、メッセージ型サービス業ですが、システムの開発そのものは、大半のソフトウェア会社がマッサージ型サービス業であるのです。なぜかと言いますとシステム開発の売買単位がソフトウェアの「機能」ではなく「人月」と呼ばれる、開発を担当する技術者の技能と言う「機能」が売買単位になっているからです。
ERPパッケージを開発して販売している会社はもちろんパッケージの「機能」を売買単位にしていますので、メッセージ型サービス業と言えます。しかしERPパッケージをカスタマイズしてユーザーに納入する会社の売買単位は名目は別にしてやはり「人月」ですからマッサージ型なのです。
逆にメッセージ型に分類できるソフトセクターは限られています。ERPパッケージを含めてカスタマイズする前の(あるいはカスタマイズしない)パッケージのベンダーとこれらのASPサービス事業者だけです。
ソフトアセットからハードアセットへと言う流れ
前回以下のように書きました。
むしろこの議論の根本の問題は、ハードセクターとソフトセクターの境界線を、どう言う尺度でどこに引くかこそ議論の本質ではないでしょうか。更に話しを続ければ、ハードセクターにおけるハードアセットの意味は昔も今も大きく変わってはいないし、ソフトセクターのソフトアセットの意味も同様であって、指摘されるような『ソフトセクターは転換期に入ってしまっている』と言うのは実はそれぞれのアセットの価値の変動ではなく事業のセクターの転換であるととらえるべきだと言う立場です。
ハードアセットもソフトアセットもその中身は別にして、資産価値すなわち利益がどれだけ得られるかと言う意味で、昔も今も評価の方法は変わっていません。そしてその中身は、ハードアセットはコストパフォーマンスを持つモノであり、ソフトアセットはソフトウェアで実現される業務ノウハウです。
このように考えると様々な現象の真相が見えてきます。
ソフトセクターの成熟化とは、ソフトセクターの従来の分類の大半を占めるマッサージ型サービス業における売買単価の下落による売上の減少です。ソフトセクターに、メッセージ型サービス業であるユーザーも含めると、これはソフトセクターが今なお爆発的な拡大傾向にあると言えます。すなわちインターネットの普及で、ソフトアセットである「業務」そのものが、今までのマス化した「業務」という限られた世界から、解き放たれた不死鳥がごとくすべての「業務」範囲までに拡大しようとしていると言うことです。
渡辺聡さんは、
ところが、上記の通り、ソフトセクターは転換期に入ってしまっている。オープン化、標準化の動きとも合わせて考えると、ある日出てきた品質の良いアプリが世の中を席巻し、次々と高収益企業が出来上がるという話はリアリティを感じられなくなってきた。これからは無形資産、インタンジブル・アセットの時代だとの話を数年前から良く耳にするようになったが、リストの中からアプリケーションそのものは落ちつつある、もしくは事業デザインの一部に一体化した形で組み込まれつつあるのだろう。出来の良いアプリといえども単体では資産価値を持たなくなりつつあり、競争力維持の投資対象としての位置づけは変わってきている。
と書いていますが、ここで言うアプリはマス化した「業務」のみを見ていると思います。すべての「業務」範囲とは別の言い方をすればあらゆる世の中のビジネスモデルです。ネットで証券の取引をするためにはソフトセクター抜きには考えられません。
併行して起こる現象が、この段の冒頭の、
アセットの価値の変動ではなく事業のセクターの転換
です。
ソフトセクターはやがてハードセクターへ転換していきます。インターネットを含めた、業務ノウハウが組み込まれたシステム自体がモノ化し、装置として機能するようになって、モノを売買するハードセクターへ転換していくのです。OSしかりケータイしかりです。そしてそこではハードアセットのコストパフォーマンスの競争が繰り広げられます。
どんな優れたソフトアセットでも、この流れに抗することはできません。プログラムと言うモノ化が避けられないと言うことです。これに抗する唯一の方法が私はASPサービスであると考えています。ASPサービスは、唯一ソフトセクター側でソフトアセットを進化させることができます。多大なる資本を投下した第n次開発も不要です。数百以上のユーザーに支えられて不断の開発が可能だからです。
以下次回に書きます。 KAI