「実質金利」を理解するだけで、経済がわかる

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今回の日銀によるマイナス金利導入決定ほど、ジャーナリストや知識人といわれる方々の、経済理論への理解度が試される、格好の事例はないのではないかと、KAIは思うのであります。

まずは、その理解度を示す一文が、こちらであります。

「マイナス金利の導入は驚きだったが、市場に与えるインパクトが足りない。明らかに迫力不足だ」

有力金融機関の市場担当者は、黒田の一手にこう疑問符を付けるが、黒田劇場は当日の市場では、前回のような手放しの拍手を湧き起こすことができなかったのだ。

(中略)

マイナス金利は、金融機関が日銀に眠らせていた資金に金利を課すことで、強引に放出させる仕掛けだ。黒田は金融機関に、融資先を前向きに発掘し、株式や外債などで資金を積極的に運用するインセンティブを与えたのだ。
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この「マイナス金利は・・強引に放出させる仕掛け」との理解は、いかにも表面的な理解にとどまっているのでありますが、それがどう言う意味かをご説明する前に、もうひとつの記事をお読みいただきたいのであります。
こうした経済全体に及ぶ作用がわからないと、量的緩和の正確な理解はできない。それを正確に理解していると、今回のマイナス金利は、量的緩和に買いオペと同等の効果があることがわかるだろう。アバウトにいえば、ともに、実質金利を下げ有効需要を作ると同時に、銀行等に貸出を促すものだ。
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このタイミングで、日銀がマイナス金利の導入に踏み切ったのは、今の国債市場が品不足状態にあるからだ。買いオペ(市場からの国債購入)の増額はテクニカルではあるがやりにくい。国債市場で取引される国債は新規発行されたものが多く、過去に発行されて金融機関のポートフォリオに沈んだ国債はあまり取引されない傾向がある。

政策に半可通の人は、新たな国債を発行すればいいという。ところが、「国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする」(憲法第85条)と定められている。来2016年度予算は、1月22日に国会に提出されている。今、新規の国債発行となれば、野党から、政府予算案の作り直しを要求されることとなる。このため、国会開催中は、なかなか新たな政策を打ち出せないわけだ。
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両者を較べるまでもなく、後者の方が、実質金利に言及しているだけ、マイナス金利による本質的な効果の意味を、より深く理解することができるのであります。

また異次元の量的緩和政策である国債購入の増額と、このマイナス金利が、同等の効果であることにも触れている点で、黒田日銀による一連の量的緩和政策の流れにあることも、よりよく理解できるのであります。

そこで、であります。

さきほど引用いたしました文章の中の「(マイナス金利と買いオペ)ともに、実質金利を下げ有効需要を作る」と言う箇所について、これこそが、経済の本質を理解するとっかかりになるのでありまして、これを今回はこのエントリーでご説明したいと思うのであります。

と、その前に、この公式をご説明することにするのであります。

・実質金利 = 名目金利 − 予想インフレ率

この公式はフィッシャーの方程式といわれるもので、この方程式が意味するところはこちらの解説をごらんいただきたいのであります。

金利には「名目金利」と「実質金利」があり、このことが明確に理解できているか否かで、経済現象の理解に大きな差がでる。名目金利が高いか低いかを判断する場合、物価の変動を考慮しなければならない。

実質金利 = (名目金利)-(予期インフレ率)で表すことができる。この関係を解いたのは、アメリカの経済学者であるアーヴィング・フィッシャーであり、この式はフィッシャー方程式といわれている。
実質金利

そして、もうひとつ重要な公式が、こちら。

・実質金利 = 通貨価値

みなさん、意外とこの公式は、フィッシャー方程式に較べて認知度が低いのでありますが、実質金利とは何か、この公式がすべてを説明しているのであります。

例えば、みなさんがもし、100億円キャッシュで持っているとすると、実質金利がプラスである間は、ほっておいてもこの100億円は増えていくことになるのであります。

しかし、実質金利がマイナスであるとすると、そうです、100億円は減り続けることになるのであります。

当然、減るのは損することになりますので、まず円が売られドルに替えられることが起きるのであります。すなわち円安であります。

もちろん、それだけではないのであります。利益を生まないキャッシュから配当のある金融商品へと資金の移動が起きるのであります。

あるいは、円安によるドル資金の流入が、株式市場へと向かい、株高を誘導することになるのであります。

この結果、投資や消費といった有効需要が増大し、経済を好景気へと導くのであります。

(現在投資や消費が伸びない理由は、2年前の4月の消費税アップが原因。消費税とは、その名の通り、消費に税と言う負荷、抵抗をかけるものですから、消費が落ちるのは当たり前なのです)

かように考えますれば、20年以上もの長きに亘ってデフレ経済を続ける日本の社会にあっては、いかに実質金利をマイナスに維持することが重要であるか、みなさんにご理解いただけるものと思うのであります。

そこで重要となりますのが、さきほどのフィッシャー方程式なんであります。

従来の日銀理論では、ゼロ金利政策を続ける限り、これ以上名目金利を下げようがなく、しかも予想インフレ率は日銀の手中にはなく、バトンは政府にあるとして、日銀の役割を放棄してきたのであります。(放棄どころかデフレ推進さえ行ってきた)

これにかかんに反旗を翻したのが、黒田バズーカだったのであります。

この意味で、黒田総裁による、異次元緩和によって、デフレ突入以来ずっとマイナスであった予想インフレ率をプラスに転換し、これで実質金利をマイナスにすることに成功したのであります。

しかし、ここに来て、中国経済の先行きへの不安など様々な要因で予想インフレ率をプラスに維持することが難しくなってきた。かといって買いオペ増額も、先の引用の文中の通り簡単ではない。

こういった中での、マイナス金利、すなわち、名目金利をマイナスにすることで、実質金利をあらためてマイナスに維持することに成功したのであります。

いかがでありましょうか。

いかに経済と言うものが、本質的に「実質金利」を中心に廻っているのか、ご理解いただけたのではないでしょうか。 KAI