独創性とは習慣である

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早めの長い夏休みをいただき、その間に蓄えましたエネルギーによる渾身の3連発レポート、となるかは未定でありますが、まずはお休みの間に秀逸な記事を見つけましたので、これをレポートするのであります。

東大先端研の合言葉は「もっと怒られなさい」!?、関西人の「オチ」に見る、思考パターンの変え方、世界初をつくり続ける東大教授の「自分の壁」を越える授業、生田幸士 [東京大学先端科学技術研究センター、情報理工学研究科システム情報学専攻教授]

 さらに、糸川先生は「独創力」という言葉を大切にされていました。独創というと、とてつもなく画期的なアイデアのように思われるでしょう。しかし先生は、独創についてこんなにシンプルな話をされています。
「独創とは『みんながやらないこと』をやることだ」

 まったくそのとおりですよね。みんなと違うことをやれば、それが独創になる。誰ひとりやっていないことにチャレンジするからこそ、独創が生まれる。むずかしいことは考えず、ただ自分だけの道を歩んでいけば、それはすなわち独創なのです。

みんながやらないことこそ、独創性の基本である。

まことにもって、仰るとおりであります。

ところが、そうはいってもこれを万人が実行できるものではないことも、私たち凡人が証明するところであるのであります。

これを、凡人による独創性の実践を説くのが、生田幸士先生であります。

 つまり、人間の思考パターンとは、その人の「生活パターン」によって規定されるものなのです。
 関西に生まれ育ったから、会話の中にオチをつけるという発想が出てくる。オチをつけずにはいられなくなる。これは関西人ならではの思考パターンという以前に、生活パターン(生活習慣)の賜物なんですね。関西に住んでいてオチのない話をしたら「で、結局なんやねん!」「それだけかい!」となってしまいます。

 さて、本題はここからです。
 誰も思いつかないような独創力を持つためには、どうすればいいのでしょうか?

 もう答えは簡単でしょう。関西で暮らしていれば誰だって話にオチをつけたくなるように、思考パターンを変えるためには、生活パターンを変えるのです。つまり日常の行動パターンを変えていくことからスタートするのです。

 たとえば、みんながラーメンを食べていたら、自分だけはカレーを食べる。みんながエスカレーターを使っていたら、自分だけは階段を使う。みんながミステリー小説を読んでいたら、自分だけは植物図鑑を読む。みんなが海に出かけたら、自分だけは山に行く。

 まるでジョークのような話ですが、はじまりはこれくらい些細な行動でかまいません。日常の中に、ひとつでも多くの「みんなと違う行動」を増やしていくのです。
同上

独創性を生活パターン化、すなわち、習慣化することこそが、その答えであると言うのであります。

確かに、言われてみれば、これはもっともなことであるのであります。

私たちは、ついつい、一つ一つの行動や思考を、それ単独で考えてしまうのでありますが、よくよく考えてみるならば、これらすべては繋がっていることに気づくのであります。

すなわち、朝起きて、顔を洗って朝飯をくい、仕事に出かけて、また家に帰って、ベッドに入るまで、なにひとつ、毎日の繰り返しでありある日突然独創性が生み出されるような例外はないのであります。つまりは、日常性の中にこそ、独創性があるのであると、かように気づく必要があるのであります。

これを不断の努力で達成して実証した研究を、つづいてご紹介するのであります。

きっかけは、この番組から。

2013年8月4日放送、夢の扉、乳がんを一目で突き止める『スーパーレントゲン』、100年続く技術に革命!見えない病気を早期発見、早期診断!
このスーパーレントゲンを発明したのが、東北大学多元的物質科学研究所教授、百生敦(ももせあつし)。

これがいかにものすごい発明であるか、この記述を読めば一目瞭然であります。

 そこにブレークスルーをもたらしたのが、百生敦さんだ。「可視光域では以前から開発されていたタルボ(Talbot)干渉計を応用すれば、病院で使われているX線源で位相イメージングが可能です」。すでに試験機を開発済みで、病院に持ち込んで検体を使って実証実験中だ。「MRIよりも解像度が数十倍程度高く、格段に安い装置になる見込みですから、リウマチなどの軟骨病変やがんの早期診断に貢献できるのではないでしょうか」
誰もやらなかった方法でX線計測の可能性を開拓する、位相イメージング技術でがんなどの早期診断に貢献します
従来からあった格段に安いX線装置で、解像度がMRIの100倍。これにより、MRIでさえ困難であった乳がんや関節リウマチといったやわらかい組織の病変を鮮明に映し出すことが可能になったのであります。

重病を抱えた父を看病しながら、仕送りを続けてくれた母親。この父の死により東京大学博士課程への進学をあきらめた百生敦は、日立製作所に入社するのであります。その後東大大学院助教授に就任して、この大発見が生まれるのであります。

「タルボ干渉計という技術は、東大へ移ってから、輪読に使った教科書で偶然知りました。あっと思いました。古い技術ですが、X線に適用した例はありませんでした」
 そのときすでに2月だったが、すぐに残っている年度の研究費をかき集め、干渉計のカギになる格子を試作する。すると、X線でも干渉計が作れそうな手応えがあった。
 「何かおもしろいテーマはないか、常に探しています。だから、教科書のほんの数行の記述でしたが、やり過ごさなかったんです。テーマを選ぶときは、仮にその研究がもっともうまくいった場合に、どれだけのインパクトが期待できるかを検討します」。今回の場合は、医療現場での位相イメージングの実用化に道が拓けるということだ。
 2003年に、世界初のX線タルボ干渉計の成果を発表する。前述の位相CTの研究もそうだが、いわば"コロンブスの卵"だ。位相CTのときは、上司が思わず尋ねたという。「どうしてこれまで誰もやっていなかったの?」
格子を重ねたときに見える縞模様。これを位相イメージングに応用すると言うアイデアは、まさに「日常」と言う輪読の中の、偶然の産物であったのであります。

そして、つづいての事例が、こちらであります。

 ――「SPERA(スペラ)水素」と商標登録された新技術の中身を説明してください。

 「有機溶剤のトルエンと水素を化学反応させメチルシクロヘキサン(MCH)という化学物質にして水素を貯蔵・輸送する技術だ。MCHは修正インクやボールペンのインクなどに日常的に使われている。例えばガソリンなどと同じようにためたり運んだりできる」

 「体積は500分の1になる。ガスの状態で500分の1にするとしたら、500気圧の高圧ボンベに閉じ込める必要があるが、MCHなら常温・常圧で貯蔵できる」

 「トルエンに結合して水素を固定化する技術は以前から確立済みだった。これまで実用化できなかったのは、MCHに固定した水素を再びガスの形に分離する効率的な技術(脱水素化技術)がなかったからだ」

 「1980年代にカナダの水力発電でつくった水素を欧州に運ぶ『ユーロケベック計画』で脱水素技術の開発に挑んだが、できなかった。私は2002年に脱水素化の技術を開発しろと命じられ、ほぼ10年をかけて実用レベルの技術を開発できた。ちなみにスペラはラテン語で『希望せよ』という意味だ」

 ――脱水素化反応の触媒が開発のポイントですか。

 「従来の脱水素化触媒は寿命が課題で、2?3日で使えなくなった。私たちが開発した触媒は1年(8000時間以上)は十分使える。白金の触媒で、自動車排ガス浄化用触媒と同じく、劣化したら回収して再利用が可能だ。初期投資はやや高いかもしれないが、運転コストは安い触媒だ」

 「白金の粒子をおよそ1ナノ(ナノは10億分の1)メートルまで小さくし、(触媒反応の土台になる)アルミナの上に均一に分散させてつけた。MCHの分子の大きさは0.6ナノメートルくらいなので、白金粒子はほぼ分子と同じサイズだ。まさにナノサイズの触媒技術で、世界でもほかに例がないと思う」

 「触媒にはこのほかにもいくつか工夫がしてある。基本的な構造は論文などで公表したが、容易にはまねはできないはずだ」
水素を液体化、体積500分の1に 千代田化工建設の新技術を聞く

こちらも、さきほどの百生敦氏同様、引用元の記事をお読みいただければ、長年の独創技術開発と言う、決して一朝一夕に成し遂げられたものではないことがおわかりいただけるのであります。

気体である水素を液体化して、500分の1の体積に圧縮する。これをまた気体に戻して利用する技術であります。

これがそのまま、ガソリンに代わる燃料電池自動車や水素燃料自動車に応用できるのは言うまでもないのであります。もちろん、これ以外にクリーンエネルギーとしての水素の可能性には、計り知れないものがあるのであります。

こうした、世の中の仕組みを劇的に変える発明、発見、これを千代田化工建設岡田佳巳技師長は、「ゲームチェンジング」と表現するのであります。

まさにこの「ゲームチェンジング」こそが、日常の生活パターン、習慣の中から生み出されると言うことを、私たちは思い知る必要があるのであります。 KAI