このシリーズ、こちらも久しぶりでありますが、ここにきてあらたなる展開であります。
まずは、ここで何度も取り上げてきました「小澤の不等式」であります。
新理論の数式「小澤の不等式」を2003年に提唱した名古屋大の小澤正直教授と東北大の枝松圭一教授らの研究成果で、17日付の英科学誌サイエンティフィック・リポーツに掲載された。今回、メディアではほとんど取り上げられなかったのでありますが、この「実証実験」の結果には、近代の物理学の歴史を変えるほどの重大な「意味」があるのであります。不確定性原理は電子などミクロの世界では粒子の正確な位置と運動量(速度)を同時に知ることは不可能とする考えで、一定以上の測定誤差があるとしてきた。その欠陥を修正したのが新理論で、誤差をゼロにし、精度を高められる。
新理論のこれまでの検証方法は、中性子の性質などを測定する特殊な方法で、測定方法が限られるなどの問題があったという。
今回は検証実験に情報通信分野で応用されている光を使った。光の測定の強さ(感度)を変化させて調べる、より一般的な測定法で新理論が常に成り立つことを検証した。将来応用する際、光なら実用性が期待できるという。
(「不確定性原理」の欠陥、光使い検証 東北大など)
今回は、この問題についてレポートするのでありますが、なんとシンクロニシティ、この問題と強く関連する報告があったのであります。
茨城県東海村にある実験施設、「J?PARC」から大量のニュートリノを発射し、およそ300キロ離れた岐阜県飛騨市にある実験施設、「スーパーカミオカンデ」で観測しました。この「実証実験」は、いわゆる理論的に「ニュートリノ振動」と呼ばれるものの観測実験でありますが、この「ニュートリノ振動」とはいったいどういったものであるのか。これが問題なんであります。
その結果、発射したときに「ミュー型」という型だったニュートリノが、一定の割合で、「電子型」という別の型のニュートリノに変化する現象を世界で初めて正確に捉え、謎に包まれていたニュートリノの細かい特徴が明らかになったということです。(中略)
そうしたなか、今回の研究はまず、ニュートリノの側の特徴を明らかにしたわけで、今後の焦点は、ニュートリノの反物質の特徴を突き止める実験に移っていきます。
ニュートリノ研究に詳しい東京大学の村山斉教授は「今回の発見で、私たちはどうしてこの宇宙に存在するのか、大きな謎を解くためのスタートラインに立つことができた。ニュートリノは、物質と反物質のバランスを崩す一番有力な候補と考えられていて、今後の実験に期待したい」と話しています。
(ニュートリノ 日米欧で重要発見)
これをご理解いただくために、まずは超簡単、素粒子講座であります。
物質の根源であります素粒子は、4行3列の表に分類することができるのであります。
つまり、4掛ける3、12種類の素粒子の元があるのであります。
これを図解すると、こうなる。
今回問題となっていますのは、この表の一番下の行、「レプトン下段」の3つの素粒子であります。(素粒子は大きくクオークとレプトンに分かれる。それがさらに上段と下段に分かれるが、上段と下段の違いは、その素粒子が持つ電荷の違いからなる。)
クオーク上段 アップクオーク チャームクオーク トップクオーク クオーク下段 ダウンクオーク ストレンジクオーク ボトムクオーク レプトン上段 電子 ミュー粒子 タウ粒子 レプトン下段 電子ニュートリノ ミューニュートリノ タウニュートリノ
この3つの違いとは、それはそれぞれが持つ「質量」が微妙に違うのであります。
そうです、あの質量を生み出すと言う「ヒッグス粒子」が関係していたのであります。
ここで問題となりますのが、まだそのメカニズムはまったくもってわかってはいないのでありますが、「ニュートリノ振動」と呼ばれる現象であります。
これは、3種類のニュートリノが周期的に互いに変身を繰り返すと言う現象を言うのでありますが、今回この現象を実験的に観測することができたと言うお話なのであります。
さて、それでは、この実験と、冒頭の「小澤の不等式」の実証実験の間に、いったいいかなる関係があると言うのでありましょうか?
と言うのが、続いてのお話であるのであります。
そこであらためて「小澤の不等式」の実証実験とは、もう少し具体的にいかなるものであったのか。これをみてみることにするのであります。
今回の研究では、光の量子である「光子」の「偏光」を用い、誤差と擾乱に関するハイゼンベルクと小澤の2つの不等式に対する実験的検証が行われた。なお偏光とは光の波(電磁波)としての振動方向のことをいい、1個の光子の偏光状態は、1つのスピンのように振る舞い、量子情報の基本単位である量子ビット(キュービット)としても利用される。光子の縦横方向における偏光測定の演算子と、斜め45度方向の偏光測定の演算子とは交換しないため、(2)あるいは(3)式の右辺が0ではなくなり、測定誤差と擾乱に関する不確定性関係の検証に利用できる仕組みだ。実は、素粒子には、さきほどご説明しました12種類以外に、あと2つ、「光子」と「ヒッグス粒子」があるのであります。枝松教授の研究チームはまず、光子の偏光を完全に正確に測定する「強い測定」から、何も測定しない「無測定」まで、その中間の「弱い測定」も含め、測定の強さ(精度)を連続的に変化させることができる実験系(画像5)を開発。また、測定誤差と擾乱の計測には小澤教授が発案した「3状態法」と呼ばれる方法が、光を用いた計測系として初めて採用された。
(中略)
これらの結果により、光の偏光に関する測定強度を変化させるという、従来よりも一般的な測定(一般化測定、POVMなどと呼ばれる)においても、測定誤差と擾乱に関するハイゼンベルクの不等式(2)が破れ、小澤の不等式(3)が成立していくことが明らかとなったのである。
(中略)
今回の研究では、1個1個の光子の偏光の測定における誤差と擾乱を計測し、その関係がハイゼンベルクの不等式を破ることを検証し、小澤教授による新しい不等式を満たしていることが観測された。
(東北大など、不確定性原理における「小澤の不等式」の成立を実験で証明)
今回の「ハイゼンベルクの不等式」が破れる一方で「小澤の不等式」が見事成立することを証明した実験とは、この「光子」を使って、測定対象系と探針系の相互作用の結果から導きだされたものであります。
ここでご理解いただきたいのが物理現象とはなにか、と言うことであります。すなわち、物理現象とは、ここで言いますところの「測定対象系」(量子状態)であるのでありまして、決して「探針系」(観測状態)ではないのであります。
この違いを説明する概念こそ、「時間」と言う「次元」であり、これを定式化した「小澤の不等式」であったのであります。
んん?
わからんけど、とおっしゃるみなさまのために、具体的に今回の実験で利用しました「光子」を例に、これをもう少しご説明するのであります。
「光子」とは、光、すなわち電磁波現象を説明するための「素粒子」の一つであります。
いま夜空をながめて見える星の光も、目の前の蛍光灯の光も、すべてこの「光子」で説明することができるのであります。
この「光子」とは、実に不可思議な存在でありまして、まず「質量」を持たないのであります。そして、何十億年昔に夜空の星が放った光を、いま私たちが見ることができることからもわかるとおり、「光子」の寿命は永遠であります。
いわば、空間的に何十億光年(これは長さの単位です)の拡がりを持つだけではなく、時間的に何十億年、100億年と言う時間の拡がりをもつ、そういった「素粒子」であるのであります。
こんな大きな拡がりと言う「量子状態」をもつ素粒子である「光子」、これを観測するとはどう言うことかと申しあげますならば、「時間」を切り取る作業に他ならないのであります。
そして、この「光子」と、とても似た存在でありますのが、さきほどのニュートリノ振動実験に登場した「ニュートリノ」そのものであったのであります。
この両者に共通する、時間の拡がりと言う「量子状態」、これが今回のキーポイントとなるのであります。
これを小澤は、「標準偏差」と言うパラメタで表現することに成功した。つまりはそう言うことだったのであります。
「光子」も「ニュートリノ」も、ともに時間の拡がりを持つ素粒子であります。しかもこれはとてつもない大きさなのであります。
すなわち、量子とは、そう言うものであると「直観的」に理解することが、すべての理解のスタートとなるのであります。(つづく) KAI
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