前回は、成人したみなさんにとって、「仕事」がいかに大切なものかお話したのでありますが、今回は「お金」の大切さのお話であります。
そもそも、みなさんが成人するまでに受ける教育環境からして、この「お金」の大切さを理解し、これを生徒に伝えることのできる教師は皆無であると、KAIは断言してもいいと思うのであります。その理由は、また別の機会にご説明するとして、そんな環境で育ったみなさんは、よほど立派な家庭教育なり、個人の特殊な体験なりが、ない限り、「お金」とはなんであるのか、これを理解しないままみなさん「成人式」を迎えておられるのであります。
そして、いきなり結論でありますが、お話をわかりやすくするために、お金とは「時間」であると申し上げるのであります。
「タイムイズマネー」の逆。「マネーイズタイム」であります。
もちろん、1日24時間、365日と言う時間そのものではありません。
しかし、この時間とお金は強く結びついているのであります。
ご説明しましょう。
まず「お金」を稼ぐには、「時間」が必要であります。
もしいまあなたの手元に「お金」があるとして、それが自分のお金であるならば、そのお金は「過去」の時間であり、他人のお金であるなら、それは「未来」の時間であります。
その「お金」を使うことは、すなわち自分のお金であれば「過去」の時間を、それが他人のお金なら「未来」の時間を、使うことになるのであります。
そうです。重要なことは、それが「自分」のお金であるか、たとえ親のお金であったとしても自分以外の「人」のお金であるか、天と地ほどに、その意味が違ってくるのであります。(みなさんにとって「自分」のお金のことはさして重要ではありませんので今回は以降省略)
人にとって「未来」の時間とは、有限であります。もっと具体的に言えば、短ければ1カ月、長くてもほんの数年であります。
つまりは、「他人」のお金を使うと言うこととは、この「自分」の「未来」と言う時間の「先喰い」なんであります。
ここで、成人したみなさんがこれから必ず使うことになる(すでに親の家族カードで持っているかもしれませんが)「カード」について、お話しするのであります。
「カード」とは、要するに「借金」であります。つまり、「他人」のお金なんであります。
先ほどのお話を踏まえて申し上げるならば、みなさんが「カード」を使うと言うことは、すなわちしらずしらずのうちに自分自身の「未来」の時間を消費していると同じことになるのであります。
これになんの意味があるのかと、怪訝に思われるかもしれないのでありますが、きわめて重要なことなんであります。
「カード」なるものはそれを使えば使うほど、実は自分の「未来」の時間のなかで、「真に」自由に使える時間がどんどん減っていくのであります。つまりは、「カード」で使った「お金」で、自分の自由な時間が置き換えられると言うことなんであります。
もっと言えば、たとえば「カード」と言うお金で「車」を買ったとしましょう。これはあなたの「未来」の時間が、目の前にある「車」に置き換えられたと言うことであります。(わかりにくければ何百万の返済のために多大なる労力と言う時間が犠牲になると考えればいいです。)
実は、このお話は、個人だけではありません。会社もまた同じなんであります。
ただ会社の、「他人」のお金には、借金である「融資」だけではなく「出資」と言うかたちのお金があるのであります。
そして世の中、あまねく「出資」と言うもののない「会社」は存在しないのであります。もちろんそれがすべて「自分」のお金である会社があるかもしれませんが、そんな会社は「公」の会社でもなんでもないのでありますから今回は論外とするのであります。
その会社の「お金」の使い方についてであります。
あまり他人のことをとやかく言える立場ではないのでありますが、この「出資者」の嘆きが理解できない経営者は、端から経営者失格であります。いまがいくら景気の曲がり角に来て、思ったような売上が上がらなくなってきたんだとしても、より合理的な経営、より安全な業務工程、適切なスタッフィング、外注管理、知財やバックオフィスといった目の配り方をしていれば、多少業績が下回ったからと言って株主は何も言いません。私含め、業績が計画通りにいかないからマジ切れするというわけでもない。
ただ、いっときの好景気に浮かれてソーシャルが凄いの拡大するの海外狙うの上場して何千億の時価総額にするのといった、夢は大事にするべきだけど、夢が大きいからといって、小さな金を粗末に使う経営は、それがベンチャーだろうが老舗だろうが私は許せないんです。たとえ、それが自動車通勤だ、取引先との宴会は会社経費だといったレベルであったとしても、あるいは個室や秘書を抱えて手放したくないと思ったとしても、自らを省みない経営に埋没して、自己満足のようなビジョンを披露して業績不調を煙に巻くような真似はよろしくないです。
今期は地震に見舞われたので社会不安が生じて業績の伸びに悪い影響が出ました、まあそれはそうなのでしょう。でも、その社会不安に見舞われた日本人に対して、市場やお客様に対して、お前の会社はどういうミッションを作り、曇った表情の人々に少しでも笑顔を与えようとしたのか、その反響を糧に、どういうビジネスを提供していこうと考えているのか、そのうえで、遅れた上場計画をどうリスケし売上の伸び鈍化をリカバーするつもりなのか、そういう話を株主は聴きたいわけですね。
株主だから偉いとかってんじゃなくて、私も企業を経営しているし、社員を養っている経営者だからこそ感じ取るべき機微のようなものを伝えられない人に、志とか語って欲しくないし、上滑りするトレンドを熱弁されても困る、ということです。そうでないと、社員もついていけないし、自信を持って製品やサービスを作ったり売ったりできないし、会社や業務に誇りも持てないでしょう。
起業の敷居が下がったのは望ましいことだし、起業を支えるサービスが充実したのは日本経済にとってとてもプラスであるのは間違いありません。そのうえで、そういう起業文化の興隆や投資環境の充実はある一定線の善意で支えられており、それによっかかり放漫経営をして経営状態が悪化しても何ら恥じない経営者は、早めに退いたほうがいいと思います。
もちろん、一番損をするのはその経営者がそういう人間性だったということを見抜けなかった株主なんですけどね。
というわけで、今年もいきなり授業料をたくさん支払っております。ありゃあエクジットできねえな。あーあ。
(「景気が悪くなってきたので業績が悪化しました」とかいう経営者がダルい)
しかしなぜこの経営者は、この出資者の嘆きが理解できないのか。
それを説明するのが「マネーイズタイム」、「未来の時間」であります。
会社の「お金」とは、そのお金で「未来の時間」を買っているのであります。
それが「自動車通勤だ、取引先との宴会は会社経費だといったレベルであったとしても、あるいは個室や秘書」に置き換えられることだと考えると、いかにもそれが「浪費」であり、「売上」すなわち会社の「成長」にまったくもって寄与するものではないと言うことが、誰が考えてもわかることなんであります。
さて、この会社にとって、「未来の時間」の「長さ」はきわめて重要な指針となるのであります。
通常、お店を開店して、うまくいかないでつぶれるまでに3カ月と言われるのでありますが、これが「未来の時間」であります。
ここでこんなレポートをご紹介するのであります。(ある投資家による調査資料から引用しておりますが公開されているものではありませんので要約です)
この最後の「6年かそれ以上の時間」こそ、その「投資」と言うお金に対応する「未来の時間」と言えるのであります。米国のエンジェル投資について調べたWillamette大学のRobert Wiltbank教授の研究("Returns to Angel Investors in Group" 2007)。539人のエンジェル投資家を対象とし、1137件のイグジットについて調査。
投資した案件の5割は、イグジットの時点で投資した額を回収できていない。
3分の1は、まったくの損失に終わっている。
全体の7%の案件が回収額が投資した金額の10倍以上というハイ・リターンを実現している。
このハイ・リターンの分があるため、平均すると、回収金額は投資金額の2.6倍になっている。このデータから読みとれることは、
第1に、イグジットの時期が遅い案件ほどリターンが大きい傾向がある。
第2に、投資家が自らの知識、経験が深い分野の企業に投資した場合に成果が大きい。
第3に、投資先への監督、助言、指導など、関わりの度合いが高いほど、投資に成功する。このWiltbankのデータをもとにして、Bill Payneは、エンジェル投資家が10の企業に10万ドルずつ投資した場合の一般的な推移をつぎのように描いている。
・3年後には、5つの企業が廃業し、そのうち3社は完全な損失、2社は投資額の半分を回収。
・4年後には、4社の株式を売却し、それぞれ10万ドル、15万ドル、20万ドル、30万ドルを回収。
・6年後には、残った1社が成功し、投資金額の20倍の200万ドルを回収。こうしたデータから得られる示唆として、
エンジェル投資家がよい成果をおさめるための投資の仕方として重要な点のひとつは、投資先の分散で、10社以上に投資すること。できれば15社への投資が望ましい。
ハイ・リターンを得るには、6年かそれ以上の時間が必要。
(東京エンジェルズ12年史、需要研究所、山本眞人・永野聖美、2012/1/20、p.37-38から要約)
経営者のみなさまや、あるいは、これから起業を夢見る若いみなさんには、この「未来の時間」と言う限られた時間のなかで、いかにして売上を上げ、会社を成長へと導いていくか、その手腕が問われていると、お考えいただきたいのであります。
そして、投資家のみなさんにとって、この「未来の時間」と言う「長さ」もまた必要不可欠であることも、重々ご理解願いたいのであります。(しかし長すぎるとのご批判は、甘受) KAI