Fusion-ioが考えるイノベーションはとってもシンプルかつプリンシプル

  • 投稿日:
  • by

Fusion-ioと言う会社が、アメリカにある。

このFusion-ioのような会社が、いまの日本、なぜ生まれなくなったのか?

これを考えると、日本の製造業をはじめとした産業全体を覆う閉塞感の原因がどこにあるのか、これがよく見えてくるのであります。

これをご説明する前に、そもそもなんで今Fusion-io社なのか、であります。

わずか2つ程度のPCIeスロットのスペースに、10テラバイトのストレージ容量で、しかも1秒間に130万回のI/O性能、リード性能が6.7 GB/s、ライト性能は3.9 GB/sという怪物のようなフラッシュドライブ「ioDrive Octal」を、米Fusion-ioが発表しました。

「ioDrive Octal」は、2012年の第1四半期に登場予定、価格はまだ発表されていません。

データベース性能が飛躍的に向上
Fusion-ioは、PCIeスロットに接続する高速なサーバ内蔵型フラッシュストレージという、新しいストレージデバイス分野の草分け的存在。

一般にエンタープライズ用途においてフラッシュメモリを用いたストレージは、リードに比べてライトが遅いことや、長期間の使用に対する信頼性や寿命などの課題を抱えているといわれていますが、Fusion-ioではフラッシュメモリの手前に巨大なキャッシュを置き、フラッシュメモリへの読み書きを工夫し、強力なエラー訂正機構を備えるなどで、こうした課題を解決しています(稼働中にあるフラッシュメモリが故障したとしても問題なく動作するほどだそうです)。

同社の製品はいま、集積度が高くトラフィックが集中する仮想環境や大規模データベース処理を行うユーザー、大量のユーザーからアクセスがあるソーシャルゲームベンダなど先進的なユーザーからひっぱりだこの状態です。

というのも、高負荷の環境でボトルネックになるデータベースの性能を、同社製品を導入することで劇的に引き上げることが可能になるため、苦労してシャーディングを駆使したりNoSQLで再構築しなくとも済むためです(「Fusion-ioは甘えだ」とまで言われているらしいです)。

PCIeフラッシュストレージのメインストリーム化
ストレージのボトルネックの解決は以前からシステム構築にあたっての課題でしたが、特に現在では仮想化やクラウドによってシステムの集積度が高まり、CPUの高速化とマルチコア化や大容量メモリが一般的になったことなどにより、ストレージとその他のI/Oスピードのギャップは深刻なほどに大きくなっています。このことを背景にして、高速なストレージの重要性が高まってきました。

そのために、従来のSATAやSASなどのインターフェイスよりも高速なPCIe接続のフラッシュストレージは注目される存在になっています。現在、フォームファクタやコネクタなどの標準化への取り組みも始まっているようで、クラウド自体の新しいタイプのストレージとしてメインストリームになるだろうとも予測されています。
まさに怪物! Fusion-ioが容量10テラバイト/性能130万IOPSのフラッシュドライブ「ioDrive Octal」発表

アプリケーションにとってデータベースが命。車にとってエンジンが命と、まったく同じであります。

この「アプリケーション」にとって欠くべからざるデータベースの性能を、驚異的に改善する製品を供給するメーカーがFusion-io社と言うわけであります。

しかし、ここで重要なことは、Fusion-io社はなにもまったく新しい要素技術を開発してこの製品を生み出したわけでもなんでもないと言うことであります。すなわち、彼らの製品は、NAND型フラッシュメモリと言う高速半導体を、ストレージすなわち外部記憶装置に、単に応用しただけの製品なんであります。

もちろんこのためには、引用した記事の中にあるように、フラッシュメモリを使ったストレージの弱点を克服するための巨大キャッシュやエラー訂正機構搭載など様々な工夫が施されて実現されているわけではありますが。

実は、この構造こそがあのアップルのジョブズが生み出した製品と同じなんであります。

むしろ要素技術としての技術力から言えば、日本のメーカーの方がはるかに上であるにもかかわらず、iPodもiPhoneもiPadも、いっこうに日本からは出てきたためしがないのであります。

これがなぜなのか、この冒頭の疑問でもあるこの問いに答えるためにヒントとなるのが、「アプリケーション」と言うキーワードであります。

結論を先に言ってしまえば、日本の中では、製造業に携わる人だけではなく、おおよそ経済に関わる人々、これを伝えるマスメディア、これから就職しようとする学生を含めた一般の人々のことごとくが、この「アプリケーション」の価値を正当に評価できないでいるし、評価以前に「アプリケーション」の意味すらまったくもって理解できない人たちであるのであります。

いまや世界は、「貨幣価値」の時代から、「アプリケーション価値」の時代へと、革命的変化を遂げようとしているのであります。

いまや世界は、「アプリケーション」を中心にして動いている。「アプリケーション」を中心に世界が廻っているのであります。

この厳然たる事実を目の当たりにして、これから目をそらしあえて凝視しようとしないのが、日本と言う国の真実なんであります。

Fusion-io社の製品とは、この「アプリケーション」の要の「データベース」性能の強い改善要請を受けて生み出されたものであり、Fusion-ioと言う会社の中心、ど真ん中には、「アプリケーション価値」が厳然として位置づけられているのであります。

翻って、わがニッポン。

この典型が、スーパーコンピュータ「京」の開発であります。

事業仕分けでもさんざん指摘されたことではありますが、この利用技術、すなわちアプリケーションにはまったく開かれてはいない。アプリケーションは二の次なんであります。

確かに日本にも、グリー、DeNA、ミクシィといったソーシャル「アプリケーション」の会社があるにはある。しかしこれはあくまで、すでに時代遅れの価値観、金もうけがうまいと言う「貨幣価値」として評価されているにすぎないのであります。

「アプリケーション価値」とは、わかりやすく言えば社会の有用性であります。

これらの会社の存在自体の一体どこが、社会的有用性として評価されているのでありましょうか。

その他ことごとくの企業もまた、自社開発、他社開発によらず「アプリケーション」を開発し利用している。利用はしているけれども、ごくごく一部の例外を除いて、この「アプリケーション」はおろかこれを生み出す技術者さえもまた彼らを高く評価している企業などまったくもって皆無なのであります。これを受けて就職を志す学生もまた以下同様であります。

ソニーに代表される日本の製造業。かつての、世界に追い付け、世界を追い越せ、と言う目標を失ってしまって、久しい。

この目標に替わる価値観こそ、「アプリケーション価値」であると申し上げているのであります。

この意味での、Fusion-io社であります。

ただひたすら「アプリケーション」を速く動かすと言う「アプリケーション価値」を高める製品を開発する。

テレビと言う製品の価値が、テレビと言う「モノ」にあるのではなく、テレビによって伝えられる映像にこそあるように、自分たちが開発する製品の最終価値が、いったいどこにあるのか。これが「アプリケーション価値」にこそあることを理解して初めて、日本の製造業、IT業界、クラウド業界に、未来は残されていると言えるのであります。 KAI