あまねくビジネスにこれを成功に導く要諦があるとすれば、それはそのビジネスの本質、すなわち、そのビジネスモデルがいったいなんであるか、これを理解することに尽きるのであります。
もちろん、クラウドビジネスにおいても、これは例外ではないのであります。
そして、これが理解できていないと、このビジネスの発展にとって、成功はおろか、こんなかたちで思いっ切り足を引っ張ってくれるのであります。
「ファイルシステムの不具合」と一言で済ませられる問題ではないことは、クラウドに携わる人間なら誰だってすぐにわかること。にもかかわらず、こうとしか説明できないのでは、そもそもにおいてクラウドビジネスをやる資格がもとから彼らにはなかったってことの証明なんであります。NTTPCコミュニケーションズが提供するパブリッククラウドサービス「WebARENA CLOUD9」で、5月8日から障害が発生している。復旧の見込みは今のところ不明だ。
WebARENA CLOUD9は、IaaS型のパブリッククラウドサービス。米Verioと共同開発したクラウド基盤に日本向けのローカライズを加え、仮想サーバを提供している。
同社が公開した情報によると、5月8日午前0時ごろに障害が発生し、すべての仮想サーバに接続できない状態となった。仮想サーバが起動できない事象も発生しているほか、顧客のデータに不整合が生じた可能性もあるという。
原因はファイルシステムの不具合。当初は5月9日11時、次いで12日10時ごろの復旧を見込んでいたが、データ不整合解消のためのファイルチェックが難航し、想定を大きく上回る時間を要する状態になっている。復旧時期は未定で、データ復旧の可否も含め、判明次第報告していくという。
これを受けてNTTPCコミュニケーションズでは、WebARENA CLOUD9の新規申し込み受付を一時停止した。同社広報によると、障害の影響を受けたユーザーへの対応については検討中で、原因究明と復旧作業を進めつつ、個別に対応していく方向という。
(NTTPCのクラウドサービスで障害、復旧時期は未定)
先日のAmazonクラウドの大規模障害もまた、これは同様なんであります。
一見なんの問題もなく復旧したかのような記述でありますが、まったくもってそうではないのであります。こうした措置により、復旧作業が進んでいきました。
4月22日の昼過ぎには、ほぼ復旧状態へ。4月22日 02:00AM(PDT)、EBSチームは大量の新たな容量を追加することに成功しレプリケーションのバックログの作業を開始。
そして翌日、最終的にEBSへのAPIアクセスが利用可能となりました。4月22日 12:30PM (PDT)、9時間に渡ってEBSボリューム復旧が行われ、障害の発生したアベイラビリティ・ゾーンの全体の2.2%以外が復旧しました。
(Amazonクラウドの大規模障害、そのときに内部で何が起きていたのか? 日本語での要約)4月23 日 6:15 PM(PDT)、障害の発生したアベイラビリティ・ゾーンのEBSへのAPIアクセスが利用可能となりました。
それは、単にAmazonクラウドのPaaS(IaaS)としての機能が復旧したに過ぎないのであって、これによってその上で動作していたアプリケーションサービスが元通り無事復旧したかどうか、なんらの保証もなされてはいないのであります。
これが、何を意味しているかと言えば、アプリケーションサービスの安全な動作保証のないクラウドサービスには、もとからなんの付加価値もないサービスなんだと言うことなんであります。
いやそうではない、とAmazonクラウドの立場からすれば、これはアプリケーションレベルでの問題であって我々の関与する問題ではないのだと主張したいところではありますが、しかしそうはならないのがクラウドサービスと言う「ビジネスモデル」の本質なんであります。
これは実は、なんら複雑な問題でもなんでもない。
ソフトウェアビジネスの歴史を振り返るまでもなく、人々はソフトウェアの何に価値を見出してきたかと言えば、それは「アプリケーション」をおいて他にはないのであります。
もちろん、これはWindowsに代表されるような「基盤」となるソフトウェアの価値をなんら否定はしない。否定はしないけれど、「基盤」の上に「アプリケーション」があってこそ、その価値に意味があると言えるのであります。
いまやこれで最も成功していると言えるのが、AppleのiOSビジネス。
しかしこれは直接的な意味でのクラウドビジネスではない。はたしてクラウドビジネスにおいても通用するのかと言えば、もちろんこれは通用するし、通用する以上にクラウドビジネスとは、「基盤」のビジネスそのものなんであります。
しかも、そのPaaSと言う「基盤」の上で動作するサービス(SaaS)としての「アプリケーション」もまた「基盤」ビジネスとなって、「基盤」ビジネスが重層構造を成しているのであります。
更に言えば、SaaSとしての「アプリケーション」を「基盤」とするならば、その付加価値である更なる上位の「アプリケーション」とは、いったいどこにあるのか。
これがすなわち「自己組織化アプリケーション」であり、ユーザー自身が人の「行動」としての「アプリケーション」の役割を担っていると考えるのであります。
ここまで考えてきて初めて、クラウドと言うビジネスの「ビジネスモデル」とはいったいいかなるものであるのか、明確に理解することが可能になるのであります。
それは、人々の「思考」や「感情」あるいは「行動」に直接的に作用する、「基盤」となる「アプリケーション」の開発およびサービスであり、またこれを支える「基盤」の開発とサービスであるのであります。
Google検索のような不特定多数を対象とするものから、会社組織そのもののビジネスに作用するクラウドERP、人間のコミュニケーションに作用するさまざまなかたちのSNSなど、これらすでにあるサービスだけではない。
ここにはあらたなビジネスチャンスが無限にあるのであります。
これもまた、クラウドビジネスの大いなるヒントであります。このヒントから、あなたはいかなるクラウドビジネスを思いつくのか。非常に大規模なデータの集合体を、このレポートでは「ビッグデータ」と呼んでいるのですが、そのビッグデータの活用によってイノベーションや競争力が生まれることを、ヘルスケア・小売業・公共部門・製造業・位置情報の5分野を事例として解説しています。PDFファイルで150ページを超える内容ですが、興味のある方はぜひ目を通してみて下さい。
それではデータが重要なのは良いとして、どうやったらその有効活用が実現できるのか。本レポートでは次のように提言しています:
これらの提言を通じて言えるのは、いまや「データをどう集め、誰が分析するか」という話をしている段階ではなく、「どう使ってもらうか」を考える段階に来ているということではないでしょうか。ネット&モバイルの時代、今までは取れなかったデータが取れるようになるというのはもはや当たり前であり、デジタル化されたデータを扱うコストもごく小さいものになりつつあります(マッキンゼーのレポートでは、冒頭で「世界中にある楽曲全てを保存するために必要なハードディスクは600ドルで買うことができる」という例が紹介されています)。ではどこで他社と差別化が図れるのかと言えば、実際にデータを活用する部分であり、提言の最初に「タイミングよくアクセスすることを可能にする」という内容が掲げられているのは決して偶然ではないと思います。
- 「ビッグデータ」にタイミングよくアクセスすることを容易にする
- 変動性を可視化し、パフォーマンスを改善するために、データと実験を活用する
- セグメンテーションを詳細化し、よりカスタマイズされたアクションを行う
- 自動化アルゴリズムを通じて、人間による意志決定を代替、あるいは支援する
- イノベーションを起こし、新たなビジネスモデル・製品・サービスを開発する
(ビッグデータ、スマートデバイス)
しかし、問題は、これが「ビジネスモデル」として成立するかどうか、これが一番重要なんであります。
KAIはかねてより、ソフトセクターのビジネスモデルには、情報単価モデルと機能単価モデルの2つしかないと申し上げてきましたが、ここでもまたこれは同じなんであります。
繰り返せば、クラウドビジネスとは、「基盤」(の「アプリケーション」)ビジネス。やっぱり、ビジネスの基本は誰に何を売るか、です。
ビジネスにおいて、難しい理屈は不用。この何を売るか、そしてその単価はいくらか。この正確な認識なくして、ビジネスは成り立ちません。
ではWeb2.0業界とは、一体何を売る商売か。言い換えれば機能単価か情報単価か。この詳しい説明はこの2つのエントリーを参照ください。
(広告モデル考)
「基盤」ビジネスと言う「ビジネスモデル」は、言ってしまえば機能単価モデルのことであります。
これに「クラウド」と言う「アプリケーション」の「基盤」ビジネスが加わったことで初めて、情報単価モデルのビジネスが可能になったと、こう考えればいいのであります。
しかしあくまで基本は、機能単価モデルであります。その必要とされる「機能」に応じた市場価格が「健全」な形で形成される世界の構築に、いま私たちは、真剣に取り組んでいく必要があるのであります。
標題の「成功法則」としてあらためてこれをまとめて言えば、その「機能」にみあった月額いくらの、毎日の社会生活やビジネスに不可欠となる「基盤」の「アプリケーション」の構築及びこのサービス。これが、あなたのクラウドビジネスを成功へと導くキーとなるのであります。 KAI