戦後初の連立政権となった英国。世界中で、いよいよ「政治のオープン化」に向けて政治が大きく動き始めたのであります。
1945年以来、65年ぶりの連立政権であります。米国と違って、立憲君主制。もちろん日本も立憲君主制ではありますが、エリザベス女王による首相の任命と組閣を命ずることは手続きの順序関係からして、英国と日本とでは彼我の感があるのであります。【ロンドン=木村正人】エリザベス英女王は11日、総選挙で第1党となった保守党のデービッド・キャメロン党首をバッキンガム宮殿に呼んで首相に任命、組閣を命じた。キャメロン首相は首相官邸入りし、保守党と第3党・自由民主党の連立政権を樹立。自民党からは副首相に任命されたニック・クレッグ党首ら5人が入閣した。36年ぶりに全政党が過半数割れした総選挙から5日目、英国で戦後初の連立政権が樹立された。
(【英国の選択】戦後初の連立政権が発足 副首相に自民のクレッグ党首)
さて、この政権交代のどこが「政治のオープン化」と言えるのでありましょうか。
65年ぶりの連立政権と言うことは、すなわち65年ぶりに第1党の与党が過半数割れとなったと言うことであり、今回の自由民主党のような第3極の存在がきわめて重要な意味を持つようになると言うことであります。
これは、連立政権といっても、日本のかつての自民党と公明党のように、選挙前から連立を組むのとは意味が違うのであります。最後の最後まで、あくまで第3極と言うのが重要なわけであります。
この意味は、政党側の論理からすると見えにくいかもしれないけれど、有権者である市民の立場からするときわめて明確なわけであります。それは、例えば米国のように民主党と共和党しかない場合に、市民の「希望」を叶える手段は、最初から市民側にはない。あるのは、政党が希望して打ち出す政策であり、市民がそれを良かれと思い実現したいと行動する手段は「美人投票」しかないのであります。
つまりは、そう言うことであります。一方の有権者である「市民」は、そうはいかない。美人投票と一緒で、多くの人が美人と思う女性に投票しない限り、勝ち組に入ることは適わない。自分の好き嫌いだけで投票する限り、自分の希望を叶えるすべはなかったのであります。その上、勝ち組に入ったとしても、所詮お願いするだけで、実質的に次の選挙までなにもできない。
これが、いま変わった。
多数派の指標である、政党支持率。無党派層が、過半数になった。これは何を意味するのか。実権が、有権者である「市民」のフリーハンドになったってことであります。つまり、無党派層を押さえない限り、政治の主導権も、議席もなにも取ることはできないのであります。
(今なにが起きようとしているのか週末テニス)
日本の無党派層、英国の自由民主党を支持する人々、いずれも自分たちの「希望」が、政党側の政策より前にあることを実感できるようになったってことであります。
これを読むと、一見自民党は票も議席も減らして、有権者の希望が遠のく形になっているけれど、そうではないのであります。選挙の結果から、政党の考える「移民政策」も「ユーロ導入」も人気がないことを思い知らされたのであります。そこで、その政策をあきらめると言う形で連立に向かう。多くの有権者の希望、すなわち反「移民政策」、反「ユーロ導入」に沿う形で政策が実現したわけであります。英国で初めて行われたテレビ討論会でクレッグ党首の人気が沸騰した自民党も失速。小政党にとって得票率が議席率に反映されない単純小選挙区制の不利はあるものの、得票率が前回を若干上回る23%弱にとどまった最大の要因は自民党の移民政策の甘さにある。
数十万人といわれる長期不法滞在者の問題を解決するため、自民党は不法滞在者への市民権付与をマニフェスト(政権公約)に掲げたが、首相の失言問題で労働党支持者の女性が「東欧からの移民が増えて困っている」と訴えたように、英国の一般的な世論はブレア前政権下で進められた移民の拡大政策には否定的だ。
このほか、欧州単一通貨ユーロ導入支持など、英国民にはなじみにくい自民党の公約がクレッグ人気で浸透するにつれ、逆に自民党離れを招いた。
(【英国の選択】労働党の退場迫った有権者 1年後総選挙の予測も)
さらには、もともとからの自民党支持者の悲願でもあった選挙制度改革も実現したのであります。副首相に任命された自民党のニック・クレッグ党首=5月11日、ロンドン(AP) 【ロンドン=木村正人】英国初のテレビ討論会を機に沸騰した人気を総選挙に結びつけられなかった第三党・自由民主党だが、13年ぶりの政権奪還を目指す保守党から選挙制度改革で大きな譲歩を引き出した。
保守党と労働党という二大政党の間に埋もれてきた自民党にとって、小政党に不利な単純小選挙区制の改革は悲願だった。クレッグ党首はマニフェスト(政権公約)で下院議員の150人削減とともに、候補者に優先順位をつけて投票し、4〜5人の当選者を選ぶ中選挙区制の導入を掲げた。これは比例代表制の一種でもある。
自民党は得票率を前回より1ポイント多い23%に伸ばしたが、議席数は62から57(議席率8・8%)に後退。自民党案の中選挙区制なら162議席を獲得した計算だ。
一方、保守党のキャメロン党首は「強い政府」を生む単純小選挙区制を維持する考えだったが、政権を奪取して財政再建に着手するため自民党に対し大幅に譲歩した。小選挙区のまま優先順位投票を導入して死票を減らす妥協案を法制化し、有権者に是非を問う国民投票を実施することで自民党と合意した。
(【英国の選択】選挙制度改革勝ち取った自民党)
ここで勘違いしてはいけないのは、第3極がいわゆるキャスティングボートを握っていることと「政治のオープン化」との間には、なんの関係もないと言うことであります。
「政治のオープン化」とは、あくまで「政治家」と「市民」との間の力関係の逆転であります。「政治家」は「市民」の声、希望をきくしか生き残るすべはないと、心底理解すると言うことであります。もちろんこれは日本の民主党の選挙対策のためのポピュリズムとは、断じてことなるものであります。彼らのポピュリズムが対象とする「市民」とは、単に「市民」の顔をした「既得権者」にすぎないからであります。
これからの日本の政治家は、ただただ、無党派層と言われる人たちの声に耳を傾け、ひたすらに、彼らに向け自分たちの思いを発信していくしかない。そう言うことなのであります。 KAI