これを読んで、何かひっかかるんだけど、それが何かわからない。
この「現代人の教訓」とは、何を教訓とすればいいのか分かったようで分からないのであります。不規則な生活で塩分を摂ると高血圧症になる原因を、京都大学大学院薬学研究科の岡村均教授(システムバイオロジー)らの研究チームが動物実験で世界で初めて突き止め、14日付(日本時間)の米医学誌「ネイチャー・メディスン」(電子版)に掲載された。徹夜をするなど不規則な生活を送る人たちが高血圧症になりやすいことは知られているが、原因は不明だった。今回の研究で、改めて規則的な生活の重要性が証明された形だ。
研究チームは、遺伝子を改変して生体リズムを壊したマウスで実験。ホルモンを出す臓器「副腎(ふくじん)」から、体内の塩分量を一定に保つ作用があるホルモンが過剰に出ていることがわかった。
さらに副腎の遺伝子解析で、このホルモンを作る特定の酵素「水酸化ステロイド脱水素酵素」が通常の5倍以上生まれていることも判明。マウスに食塩を与えると、高血圧になった。
このことから不規則な生活が、すでに高血圧への“準備段階”になっていることが、わかった。
岡村教授は「この酵素は人にもあり、同じ作用をする可能性が高い」と指摘した上で「不規則な生活が不健康になる一面が科学的にも証明された。現代人の教訓にしてほしい」と話している。
(不規則生活で高血圧…原因を初解明 塩分調整に酵素関与 京大)
教授の言いたいことは、<不規則な生活>→<体内の塩分量を一定に保つ作用があるホルモンを作る酵素の増加>→<体内の塩分量を一定に保つ作用があるホルモン過剰>→<塩分摂取>→<体内塩分過多>→<高血圧症発症>、と言うことのようですが、これはこれで確かに理解できます。
しかし、なぜ<生体リズムの変調>が<体内の塩分量を一定に保つ作用があるホルモンを作る酵素の増加>に繋がるのか、これがよく見えません。
人間の身体は、動的平衡と言うように、その反応には必ず意味があります。普通に考えれば、<生体リズムの変調>自体は、ごくありふれた現象だと思われますが、これが高血圧と言う病気に直結する反応を起こすことには、どう考えても合点がいかないのです。
<生体リズムの変調>が起これば、<生体リズムの変調>を修復する反応が起こるはずであり、<体内の塩分量を一定に保つ作用があるホルモンを作る酵素の増加>とはまさにこの反応ではないのでしょうか。
これはすなわち、<生体リズム>と<塩分>つまり<ナトリウム>とが明確に繋がっている証左ではないのかと言うことであります。
この<体内塩分>の問題については、ここで以前こんなことを書いています。
この<ナトリウムはそもそも人間にとって、細胞の生命活動を維持するために欠かせないもの>と言うことにこそ、<生体リズム>と<ナトリウム>との間の直結した関係を示唆するものがあります。先日、NHKの番組「冒険病理学者になる」の話をとりあげましたが、この番組のムック本が届いて、あらためて家森幸男と言う研究者の凄さに、感動すら覚えてしまいます。
長いですがその一部を引用します。
(断塩宣言−−塩公害問題に立ち向かう)人間はなぜ、あえて食塩をとるのか
さて、この回を締め括るにあたって、食塩についてもう一度触れてみたいと思います。
多くの人が食塩を過剰にとっていることは、汗からも知ることができます。汗をなめるとしょっぱい味がしますが、それを当然のように思われている方も多いでしょう。実はそれは間違いです。実際にはマサイ族の汗はしょっぱくありません。
食塩を減らしていき、かいた汗に含まれるナトリウムの割合を測った実験があります。すると、食塩を減らすとナトリウムの割合も減っていくことがわかりました。ホルモン系がちゃんと調節しているのです。長時間動いて汗をかきつづけると、汗が次第に水っぽくなる経験をしたことがある人もいるかもしれません。時折、汗をかいたらナトリウムが出るから、食塩を補わなければいけないという話を耳にしますが、そんなことはありません。そもそも汗をかくのは、体内から水分を蒸発させ、その熱を利用して体温を下げるのが目的です。むしろ、汗をかくことで不要な食塩を体外に出しているわけですから、あえて食塩をとるのは逆効果といえます。
(中略)
では、マサイ族の食生活でみたように、自然の食材を食べればナトリウムは十分にとれるというのに、どうして人間はあえて食塩をとるのでしょうか。脳卒中や高血圧の原因という側面からだけ考えると、どうもナトリウムは完全に悪役のように思えてきます。しかし、カリウムとナトリウムの比率のところで触れたとおり、ナトリウムはそもそも人間にとって、細胞の生命活動を維持するために欠かせないものです。そのため、人間には基本的にナトリウムに対する欲求があり、ナトリウムが豊富に含まれている食塩もおいしく感じるものなのです。
ですから、食塩をまったくとらない方がよいとまでは言い切れません。問題は、その食塩を過剰にとるようになったことにあります。その理由は、食料の保存の必要からでした。肉や魚を塩漬けにして保存することは、世界各地で行われています。漬物も保存食の一種です。おいしい食塩も、いくら保存のためとはいえ、多量に含まれていればしょっぱくて食べられません。しかし、それを隠すために油で揚げたり、砂糖で甘くしたりするようになったのが危険なのです。こうした事情から、人間は過剰な食塩をとるのに慣れてしまったのです。
今ようやく世界で、塩分のとりすぎが健康を害するということが認められつつあります。しかしその一方で、世界を取り巻く都市化の影響により、食塩を多量に使用した食文化が確実に広がってきてもいるのです。(p.59-61)
(長寿の謎を解く、NHKムック、家森幸男、2006/11)
つまりこれは、<生体リズム>と<ナトリウム>は相補関係だと言うことであり、高血圧と言う犠牲を払ってでも、<生体リズム>を回復させようとしていると考えるべきであり、同時に<ナトリウム>の異常値が<生体リズム>の変調を生んでいるとも言えるのではないでしょうか。
なるほどこう考えると、岡村教授の言う「現代人の教訓」はもちろんその通りですが、一方で、現代人の塩分過多の食生活そのものこそが<生体リズム>の変調を来たす原因であって、これが不規則な生活となって現れているのではないかと思えるのです。
私たちの行動のほとんどすべてが無意識に支配されていると言うことは、すでに承知の事実。人は不規則な生活をしようと思ってあえてしているわけではないのも、これまた事実。
であるならば、塩分控えめの食事に切り替えていくことこそが、規則的な生活を生むと同時に、高血圧の予防にもなる。これこそがKAIがやっと分かったもう一つの「現代人の教訓」なのであります。 KAI
コメント