やり投げの極意にせまる

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本日は文化の日。祝日はいつも、NHKの祝日早朝の番組、名前のとおりの「ホリデーインタビュー」が、KAIのひそかな楽しみであります。

ホリデーインタビュー
「やり投げ選手 村上幸史」
今年8月、ドイツで開かれた陸上の世界選手権、男子やり投げで銅メダルを獲得した村上幸史さん。この種目で日本選手がメダルを獲得したのはオリンピック、世界選手権を通じて初めてです。そんな村上さんは愛媛県上島町生名島出身。瀬戸内海に浮かぶ周囲およそ10キロ。人口2000あまりの小さな島です。村上さんは銅メダルを獲得した後、今回初めてふるさとに帰省しました。野球少年だった村上さんがなぜ陸上競技のやり投げを始め、世界トップレベルの選手にまでのぼりつめることができたのか、村上さんの“ふるさと愛”も含めてお聞きしました。

オリンピック2度の出場を果たすも、すべて予選落ち。今ひとつのところで伸び悩んでいた村上が、久しぶりのふるさとの海辺で、子どものころからの趣味である釣りをしたときのこと。竿を投げる姿勢で、ふと気がついた。竿は元を握る左手がないと右手だけでは投げられない。そうかそう言うことだったのか。高校生から始めたやり投げ。いまのいままで左手を意識したことは、ただの一度もなかった。

村上は、これをきっかけに80メートル台を安定して投げられるようになる。そして今年8月、ベルリン世界陸上で、日本人初となる銅メダルを獲得。

思わぬところに、ヒントなんてころがっているもんだ。それにしても、このやり投げが、片手だけで投げる競技ではなく、もう一方の手である左手も使う競技であると再定義することの意味は、とてつもなく大きい。

この意味を理解するには、まず室伏広治のハンマー投げを知る必要があります。2004年アテネオリンピック。ドーピング疑惑からのたなぼたながら、日本人初の金メダル。

室伏広治の父、室伏重信が編み出した4回転。これを広治が完成させた結果であります。あのボーリングと同じ16ポンドの鉄の玉を、80メートル投げる。球と槍の違いはあるにせよ、80メートルと言う距離を争う競技には、ある意味共通するものがあります。

ハンマー投げを目の前で目撃すれば、この迫力と言うか、ハンマーの飛んでいく先が自分に向かう恐怖は、ただごとではありません。ましてや、回転するコマから放たれるかの4回転は、いくら間にネットがあるとはいえ、恐怖以外のなにものでもない。

要するに、4回転と言うのは、人間の肢体すべてを支柱にして、水平に回転するハンマーとの高度なバランスの上になりたっている。

これとまったく同様に、やり投げは、人間の肢体すべての鞭がしなるような縦方向の回転の先にやりが乗っている。こう考えるとハンマー投げの両腕が回転のモーメントとなっているのとまったく同じように、やり投げもまた片手ではなく両腕が回転のモーメントに寄与しなければならないのであります。

恐らく村上はこの左手のモーメントをイメージすることにより、右手だけの力に頼らない投げ方を会得することができたに違いありません。

まことに人間の智恵とは、すばらしい。感服の極みであります。 KAI