信頼社会的週末テニス

  • 投稿日:
  • by

豊かさの代償。この日本と言う「豊かな」社会に生きることで、私たちは多くのものを失ってしまったかのように見える。

何度も書いた話だが、シャーロック・ホームズのモデルはエジンバラ大学医学部時代にコナン・ドイルが師事したジョセフ・ベル博士である。
ベル博士は、診察室に患者が入ってくると、患者が口を開く前にその出身地や職業や既往症を言い当てたという。
おそらく、ベル博士は患者から発信される無数の「前−情報的」なノイズの中から有意なものを瞬時に選り分け、それを総合して診断をくだす高い能力を有していたのだと思う。
けれども、そういう能力は多少の濃淡はあるが、私たち全員に潜在的に備わっており、それを開発する体系的なメソッドもかつては存在したのである。
識閾下で無数の「ノイズ」を処理して、それを「シグナル」に変換する能力を高めるための訓練法である。
いろいろなかたちのエクササイズがあったが、もう、現代人は誰もやらない。
「ノイズ−シグナル変換」を高速処理できる人間は気配りが行き届き、共感能力が高く、ひとの気持ちや「してほしいこと」がよくわかる。
逆に、変換能力が低い人は鈍感で、場違いで、他人の気持ちがわからず、人を誤解し、また誤解され、実際によく人の足を踏んだりする。
私たちはこの能力の開発にほとんどリソースを割かなくなった。
それは「資源が豊か」なので、限られた資源がもつ潜在可能性を網羅的に吟味する必要がなくなったからである。
コミュニケーション不調がこれだけ起こるのは、ひとつには私たちの社会が「あまりにも豊かで安全」になったからである。
現代はコミュニケーション能力が病的に低くても生きていける社会、つまり「ひとりでも生きていける社会」である。
そこではコミュニケーション能力を開発するインセンティヴは損なわれる。
当然のことだ。
それが私たちの社会を耐え難く住みにくいものにしている。
露天風呂から桜島

確かにこのウチダ先生の論には一理あるように見える。しかしこれはいわば「昔は良かった」式懐古趣味一辺倒の話で、何の解決も示してはいません。それにくらべれば、この山岸俊男氏が言うところの「安心社会から信頼社会へ」は、いま私たちがなにをなすべきかを具体的に示しています。

安心と信頼と言う二つのキーワードを手がかりに、耐震偽装や食品偽装に始まる今の日本社会の安心崩壊を、見事に予言し、その解決のための手がかりとなる指針を示すきわめて秀逸な良書です。

社会的不確実性を排除した社会によって担保されてきた、安心。社会的不確実性を前提にした社会においてこの不確実性を乗り越えるための、信頼。関係性検知能力に依拠した安心社会ではなく、人間性検知能力に裏打ちされた信頼社会。

いみじくも2008年現在、ブログやフェイスブックの登場は、この人間性検知能力に直結していて、ブログやフェイスブックを通して、人間関係における社会的不確実性、すなわち互いの情報格差が最小化され、透明性の高い社会に向けた動きが加速されようとしているのです。

閉じた社会によって社会的不確実性を排除し維持してきた安心社会は、今やこのインターネットによる開かれた社会と言う競争世界にさらされることで、安心崩壊の危機に瀕しており、これを透明性の高い社会に再構築することで、社会の中に信頼を取り戻すことができるのだと、山岸俊男は言うのです。
安心と信頼

要するに、「豊かさ」とは、多様性のこと。閉鎖的な一様社会で、高度に発達させてきた関係性検知能力によるコミュニケーションではなく、多様性社会に不可欠な人間性検知能力に基づくコミュニケーションこそ、いま、私たちに求められていることを自覚しなさいってこと。

思えば、この週末テニス。

テニスの時以外、一切互いのプライベートにもビジネスにも立ち入らない。スケジュールの連絡メールによるコミュニケーションだけで、何十年も続いてきた。互いの信頼なくしては一切成り立つはずのない関係なのです。

今週のように、たまにミスコミュニケーションは、ある。

土曜テニス。一緒に行くTジさんを迎えに行く途中で、O谷さんから電話が入る。あれ?今日は10時じゃないの?。メールに11時スタートですのでご注意くださいって書いたんですけど。読んだけど気づかなかったなあ。10時にコートに到着したけど誰もいない。

このO谷さん、午後仕事が入ってるから、12時半までしかできませんと言う。替わりの人間を手配するには今からでは間に合わない。しかし、これが幸いした。

いつものY木さんを加えて、11時からさっそくゲーム開始。うす曇にしては湿度が高くて汗がにじり出てくる。3-6、6-2、4-4ときて、丁度12時半。残り30分あるけれど、これはもう限界。O谷さんのおかげで救われました。

そして日曜テニス。

相変わらずの不安定な天気。湿度も高くて暑くてやりきれません。ゲームは、4-6、6-4と、2セットだけですでに1時半。1セットが、ながいんです。昨日同様、すでに限界ながら、時間まで持ちこたえて、1-4でお仕舞い。よくやりました。

ここで、M田さん、来週お休みさせてくださいとのこと。

困った。

来週は、Y木さんが渓流釣りに行きたいというので、ピンチヒッターにイサカくんを起用したとこ。Y木さん、渓流釣りはなしです。なんて非情なことは、言いません。誰か替わりの人が、きっといるはず。この信頼がなければ、何十年も続けられないのであります。 KAI