組織の進化のレベルが働き方を決める

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ウチダ先生の若者はなぜうまく働けないのか?と言うエントリーも面白いけれど、これを素直に受け入れられる人はいないでしょう。

労働は本質的に集団の営みであり、努力の成果が正確に個人宛に報酬として戻されるということは起こらない。

とウチダ先生はおっしゃるけれど、おいほんとかよと大半の人が思うってことです。

労働者1人を組織の最小単位と定義すると、例えばフリーのカメラマンも立派な個人事業者と言う組織の一員です。

組織が得る収入すなわち売上と労働者が得る報酬との関係は、ウチダ先生がこの一文で一刀両断されるほど単純なものではありません。

組織の売上は、労働者が提供する直接的な労働によってもたらされる場合もあれば、そうではない場合もいくらでもあります。

ウチダ先生が言う「努力の成果」を組織の売上とみなせば、この売上が労働者に分配される仕組みについて、あまた論を待たずして、「正確に個人宛に報酬として戻されるということは起こらない」こともあれば「正確に個人宛に報酬として戻される」こともあります。当然そうです。

それを決めるのが「組織の進化のレベル」だと、人はなかなか気付いてくれません。

進化のレベルの低い組織の典型が「派遣会社」です。

派遣会社でウチダ先生が言うようなことがあれば暴動がおきます。

つまり派遣会社のように組織の売上と労働者の労働が直結している企業においては、労働者の「努力の成果」がそのまま多少の手数料なり管理料を控除されようが、労働者の報酬として分配されなければ、これはたちまち争議問題に発展するのは必定です。

組織の進化のレベルは大きく分けて3段階あります。

原始レベルがこの「派遣会社」です。組織の売上と労働者の報酬が1対1の関係にある企業です。個人事業者の大半はこのレベルですが、もちろんより上位レベルの個人も存在します。

第二レベルが、受託請負会社です。組織として売上と労働者の労働の合計が1対1の関係にある企業です。人月見積もりといった時間単価である企業は、すべてこれに該当します。更にタクシー業界や理容業なども、見かけ上は時間単価でなくても、そのサービス単価の実質が時間単価であれば、すべてこのレベルに含まれることになります。

第三レベル。やっとここで組織の売上と労働者の報酬の直接的な関連は消滅します。つまり組織の売上の単価が、製品やサービスの内容をベースとしたものになり価格の抽象度が上がるということです。これに販売数量を掛けたものが組織の売上となります。

この第三レベルにおいては「正確に個人宛に報酬として戻されるということは起こらない」のは明らかで、報酬を決めるために別の価値観が導入される必要があります。

問題となるのは第二レベルの組織です。

組織全体の働きに応じて売上が増減しますが、一般的にはそれが個人の報酬に連動しません。より努力して売上に貢献したとしても、第二レベルの組織では売上をいかに労働者に分配するかは(年度の)最初から決まっていますから、せいぜいボーナスの評定が多少上がる程度でしか見返りを得ることはできません。逆に言えば努力せざるものが不当に報酬を得ることがないよう集団の力学が働いて、努力せざるものの無意味な残業が増えていくことになります。

そしてもう一つのウチダ先生の言明。

若い人たちは「やりがい」ということをよく口にする。
「やりがいのある仕事」を求めて、たびたび転職したりする。
この場合の「やりがい」ということばを年長者は「使命感」とか「社会貢献」ということと誤解しがちだが、当人たちはたいていの場合「受験勉強と同じ」という意味で使っている。
つまり、自分の努力の成果が、まちがいなく自分宛に、適切な評価を受けてもどってくるような仕事のことである。
残念ながら、ほとんどの仕事はそういうふうには構造化されていない。

ここにも大きな誤解と誤謬に基づく断定があります。

若い人たちが言う「やりがい」と言う言葉の意味の本質は「透明性」です。

若い人たちにとって会社とはある意味秘密のジャングルです。会社とはどうやってお金を儲けているのか、交際費って何とか、会社が払う税金っていくらくらいとか、新卒の社会人にとって今所属する会社が、世の中の会社の全てです。

見積書ってどう書くの、請求書のフォームって誰が決めるの、締め日ってどう言うこと、なにからなにまで生まれてこのかた先生も親も誰も教えてくれたことのないことばかりの連続です。

こんな中にあって彼らにとって一番わかりやすいのが、会社の売上です。この会社の売上が一体いくらなのか、そしてこの中身がどうなっているのか。

ところがこれがまったくオープンにされないのが今の世の中の会社です。

つまり今の若い人たちにとって「やりがい」とは、自分宛の適切な報酬でも何でもなく、まずは自分がこの会社のいくらの売上に貢献したかと言う「情報」であります。

派遣会社から派遣されている若い人にとって派遣先が自分にいくら支払っているのかと言う情報です。ソフトウェア開発で社長は赤字赤字と言うけれど一体いくらで請け負っているのかまるで教えてくれない。よくよく聞けば偽装請負で派遣清算してまるもうけなんてことも。

会社の売上の中から、自分の取り分である給料に文句を言っているのではありません。

特に第二レベルの組織では、時間単価として売上に関われば関わるほど、この売上の「情報」は不可欠となります。

では第三レベルの組織ではどうなるか。長くなりましたので以下次回に。 KAI