母性の喪失(3)

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舞台はまた菊正。保護司をなさっているハツエさんの発言。

あの子たちに問題があると言うより、ほとんどの場合、あの子たちの両親に問題があるのよね。

両親の問題とは突き詰めれば母性の問題です。子を産み育てる性を母性とすれば、子を産むまでの母性は持ち合わせても、育てる母性を喪失した母親の子の非行は哀れです。

母性の喪失は母親だけにとどまるものではありません。例えば不仲で離婚した両親の子が、父親側に残る場合、去っていった母親とともに母性もその子の心から奪われるのです。その子が男子であれば結婚して自らの子を得て初めて失った母性を取り戻すことができます。

件の高校生にとって継母の母性は、その失った母性の代償であったはず。継母がこの高校生を育てる母性を放棄しなければ、確かに代償になった。しかし結果は、父親の息子への偏愛とは裏腹に継母は父親と息子の関係の離反を図った。みせかけの従順を装いながら。

彼は、まるで100万倍のセンサーでこれを感じ取ったのです。母性の喪失を。

時間が戻ればいいと彼は言っているそうです。まことにそのとおりであり、気の毒のきわみです。 KAI