ソフトウェア開発現場の崩壊とあらたなる創造について

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このBlogを書くのは大抵バーのカウンターの上でだと、以前書きましたが、前回のエントリーもそうでした。ただ、普段はそのままアップしないで、翌日の朝もう一度細かに手を入れてから本番登録するのに、これは酔った勢いのまま上げてしまいました。

そうするとどうなるかの典型的な見本です。つまり、良いアイデアがわくと、文章の組み立てを気にせず言いたいことを、まず一気に書いてしまいます。そのあと、あっちをいじりこっちをいじりして最初からは想像のつかない文章ができあがります。前回のエントリーは、その最初のプロトタイプをそのまま公開してしまいました。ですからちょっとオカシイ。ですが趣旨は違ってないのでこのままにしよう^^;(と言い訳して)。

本題です。おなじみのLife is beautifulから。ソフトウェアの仕様書は料理のレシピに似ていると言うエントリーに反応しました。

 日本のエンタープライズ系のソフトウェア業界は、そんな根本的に間違ったソフトウェアの作り方を長年してきたために、まるで建築業界のような下請け・孫請け構造が出来てしまい、下流のエンジニア達が十分な経験も得ることが出来ずに低賃金でこき使われ、業界全体として国際競争力をなくしてしまう、という状況に陥ってしまったのではないか、というのが今回の私の仮説である。

この仮説は全く正しいと思います。しかしなぜそんな「間違ったソフトウェアの作り方」をしてきたのか、これを考えないと、一向に解決にはなりません。

なぜそんな「間違ったソフトウェアの作り方」をしてきたのか、理由は簡単です。その方が目先で儲かるからです。もう少し具体的に言うと「人月」(にんげつと読む)商売をしている限り「間違ったソフトウェアの作り方」しかできないし、これ以外の作り方をする必要がないからです。しかも、国や公共団体からして「人月」商売を入札基準と言うかたちで強制するのですから、もはやなにをかいわんやです。(このあたりの考察は以前やってありますので、詳細な説明はこのエントリーから辿ってみてください)

そこで唐突に、Web進化論に関する梅田さんのインタビュー記事を取り上げます。一見全然関係ない話のように見えて、実はこの問題に重要なヒントを与えてくれます。長いですが引用します。

B――おまけに「あちら側でどう稼ぐのか」が非常に分かりにくいから。

梅田 問題はそこです。ウェブの世界というのは、金があんまり回らないんですよ。だからリアルの世界のビジネスを捨ててウェブの世界に来ようという判断は、経営判断としてあり得ないんですよ。

 だから、自分たちの事業のベースになっているリアルの世界のビジネスを維持するために、どうやったら橋を架けられるか、どうネットを使うんだ、という視点で行くべきなわけでしょう。

 この本についても、中身はウェブの上でずっと議論してきたことが断片としてずっとあって、でもそれで伝わっていた人たちというのはすごく狭い、コアな読者だけだった。ところがそれをきちんと本という形にしてみると、今度は全然違うところへ届いただけでなく、リアルなビジネスになるわけですね。

 出版社としてもこれだけ売れれば儲かるし、書店だって儲かるから。何か巨大な歯車がかみ合い始めた感じがしたもんね。本が売れ始めたときの1週間目ぐらいに、ああ、こういうふうにかみ合うのかと。書店はこれを売ると儲かるから売りたい、それから出版社の広告部門も盛り上がってくる、営業部門も盛り上がってくる、みたいに。

 逆に言うと、リアル世界は、本当にリアルに動き出すまでは何を言っても何をやっても歯車はかみ合わない。本を出す前というのは「売れるかどうか分からない」から歯車が回らない。だけど何かを証明した瞬間に、リアル側の歯車がかたかたっと動いて、ブルドーザーが動きだす。こんな感じがリアル世界のビジネスですよね。それを初めて自分の経験として実感しました。
日経ビジネスEXPRESS

ソフトウェア開発の現場とは、まさにここで言う「リアル世界のビジネス」そのものです。そして要はリアルビジネスも、儲かりさえすれば何でもありの世界ですから、人月商売をやらなくても儲かるんだと言うことを証明してあげさえすれば、彼らはある意味簡単に歯車を切り替えてブルドーザーを動かし始めます。それをすでに私たちは、事業モデルをASPサービスに転換して4期連続の30%以上増収増益を達成することで、ちゃんと証明しています。

つまりソフトウェア開発の現場におけるASPサービスとは、梅田さんが「自分たちの事業のベースになっているリアルの世界のビジネスを維持するために、どうやったら橋を架けられるか、どうネットを使うんだ」と言っている、そのウェブとの間の架け橋そのものにあたるわけです。

もちろんASPサービスが唯一の答えではありませんが、少なくとも私たちのソフトウェア開発の現場には「間違ったソフトウェアの作り方」の入り込む余地など、一切ありません。これは、人月単価ではなく機能単価と言う仕掛けがソフトウェアの作り方に直結しているからです。

ぜひこのあたりの仕組み、仕掛けを、開発現場で苦しむプログラマだけでなく、これからプログラマを目指す若い人たちに知ってもらいたいと、筆者は切に願います。 KAI