モデル指向はなぜ必要か(2)

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付加価値とは何か

家賃収入の意味を理解するために、先に付加価値と言う概念を理解する必要があります。また同じ数式(モデル)を引用します。

PQ=VQ+F+G
M=F+G
PQ=VQ+M
Q(損益分岐点)=F/(P−V)
(P:売上単価、Q:売上数量、V:変動費単価、PQ:売上、VQ:変動費、M:付加価値、F:固定費、G:利益)

まず、この数式の中のMの意味を説明します。上式ではM=F+Gと定義していますが、本来の定義は、PQ=VQ+Mから導く式であるM=PQ−VQの方が、付加価値の概念をよく説明します。つまり、M=PQ−VQ=(P−V)×Qとなりますから、Mとは売り単価(売上単価)と仕入単価(変動費単価)の差額分に販売数量をかけたものです。つまり、部品か商品かは関係なく、モノを仕入れて販売するモデルでは、付加価値とは売上から仕入の値段を除いたものになります。更に付加価値単価(m)を導入すると、m=P−Vですので、M=(P−V)×Q=mQとなって、付加価値とは販売数量あたりの単価に分解することができます。

整理すると、販売単価とは仕入単価に付加価値単価を合わせたものです。この意味は、モノの価格とは、仕入れ価格を除けばすべて付加価値であると言うことです。家賃収入のように仕入がゼロなら、価格とは付加価値そのものになります。この特徴は、一般的に、サービス(機能)そのものを販売する業界の特徴です。例えばレンタカー業界とはサービス業に分類されますが、これは、車そのものを貸すことが目的ではなく、車の持つ機能(移動、運送、旅行)を販売することが目的であると見なすからです。

このことは、丁度1年前のエントリーで引用した、「サービス化経済入門」(中公新書、佐和隆光編、1990、p.18-19)にある説明を読むと簡単に理解できます。

サービスとモノの関係

 サービス産業の進展とモノの関係について、最後に一言触れておくことにしよう。
 サービスとは、モノの「機能」をフローとして市場で取引する営みにほかならない。いいかえれば、モノ自体ではなく、モノの持つ「機能」を売買の対象とするのがサービス業なのである。耐久消費財というモノは、それ自体、売買の対象とされるのが普通である。しかし物品リース業は、耐久消費財の「機能」を取引の対象としており、その営みはサービス業に分類される。そのほか、タクシーや宅配便を、「輸送」という自動車の「機能」を売るサービス業とみなすことができる。
 逆にいえば、ほとんどのサービス業は、なんらかのモノのサポートがなければ成り立ちえない。また、物財の「機能」の向上や多様化を通じて、サービスの外部化や多様化がもたらされる。結局、モノの「機能」を向上させ多様化させる技術革新が、経済のサービス化を推し進める動因にほかならないのである。
 さらにいえば、モノに埋め込まれ使用時に発現する「機能」の売買が、モノの売買の本質である、というふうにみることができる。たとえば、テレビ受像器というモノを買うのは、テレビというモノ自体を買うというよりは、テレビが受像する映像メッセージを買うというふうに考えるほうが、消費者の行動の本質をより的確にとらえている。つまりいつの時代においても「サービス」は産業の究極の目的であって、サービス提供の媒体としてのモノが時代とともに移り変わってきたにすぎない。
 このようにモノとサービスが表裏一体の関係にあることに着目することにより、サービス経済化の進展を、モノとその生産技術の革新の結果としてとらえる、新しい視点にたどり着くことができるのである。

この説明の中の、売買する「機能」の値段こそ、冒頭の付加価値と言う概念の本質です。

更に、ソフトウェアとは「機能」以外何者でもありません。ASPサービスとは、インターネットのおかげで、はじめてCD-ROMやパソコンと言ったモノの媒介なしに、直接「機能」を販売できるようになったサービスであると言うことです。ですから、ASPサービスと言うビジネスモデルでは、モノの値段とは違う、「機能」を使い続ける限り発生する、家賃収入と言う値段の考え方を採用しているのです。

余談ですが、こう言ったビジネスモデルの考え方は、原価主義であるメーカーでは微塵も考えられません。なぜなら彼らにとって、付加価値はF+G以外考えられないからです。つまり、固定費に利益をのせた分が付加価値ですから、こんな考え方からM=「機能」などと言う発想は出てこようはずがありません。

Qの単位が「台月」である意味

それでは次に、Qが「台月」である意味です。意味と言うより、なぜ「台月」かを説明した方が分かりやすいでしょう。

これは電話代を考えると簡単に理解できます。そもそもこのインターネットは、2001年を境に急激に普及してきているのですが、この原因は、ADSLのサービス開始です。なぜADSLのサービスとインターネットの急拡大が関係しているかと言うと、ADSLの通信速度が、それまで主流であったISDNに較べて、何十倍と高速化したことも一つの原因ですが、それより決定的な要因があります。それは定額制の導入です。1日何時間接続していても、同じ料金で使用できると言うものです。この定額制が導入される前の深夜割引時間帯のラッシュが(悪)夢のようですが、ついこの間までそうだったのです。

この定額制は、携帯電話でもauの大躍進の起爆剤になったことを考えると、何か本質的な意味の存在を感じさせます。これについては後ほど述べることにして、とりあえずASPサービスです。

ASPサービスにおける課金方式には、従量制と言われる使用しただけ料金がかかる方式と、使用した機能、接続時間にかかわらず一定の料金である定額制の方式があります。「台月」とは後者の定額制方式になります。定額制の電話代と同じように、契約台数分、ひと月、何時間使っても使わなくても料金は同じであるために、必要な時に、必要な分だけ使用することができます。また特別な機能のための料金も追加でかかりません。

ASPサービスはコンピュータのサービスですから、自動的に使用量をカウントできます。従量制にするのは、簡単にできます。現に、ECサイトのASPサービスである楽天は、楽天開設時以来の定額制を止め、利用量である取引高の何%と言う歩合制(従量制)に変えてしまいました。

しかし、これはASPサービスを利用するユーザーである企業側からすると、ビジネスモデル的に、大きな転換を意味します。つまりユーザー企業のビジネスモデルから言えば、定額制から従量制への変更は、費用の扱いが、固定費(F)から変動費(VQ)へ切り替えることを意味しています。

さて、話しが長くなりすぎました。一旦ここでアップします。 KAI