ブラウザ再考(7)

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丁度良いタイミングでFirefoxの開発責任者であるBen Goodgerに対するCNETのインタビュー記事が掲載されています。

--Mozillaが描くブラウザやブラウザスイートのビジョンはNetscapeが10年前に発表したものとどのように異なりますか。

 様々な点で異なります。Mozillaが現在描いているブラウザのビジョンは便利なブラウザを開発するというNetscapeの当初の目標と似ています。我々が推進しているビジョンは、便利なブラウザアプリ、便利なメールアプリなどを1つずつ開発していくという発想に基づいています。オールインワン(一体型)のスイートの開発は行ないません。それでは、Netscapeの晩年の二の舞になってしまいますからね。Netscapeは1994年当時、ウェブが向かっている方向性を見抜けなかったのです。

 後から振り返ると、我々はこの単純なビジョンを1つのブラウザとして具体化することに成功したことがわかります。このブラウザでは、統合型検索エンジンを使用することによって簡単に検索を実行でき、またポップアップのような妨げになるものを減らし、さらに、新技術を使用したりユーザビリティを考えることによって、人々がこれらの機能やウェブコンテンツをより効率的に利用できるようになっています。

Firefoxが、私の言う「新OSレイヤー」としてのブラウザであるのかどうか。もう少し業務アプリケーションレベルで検証される必要がありますが、Goodger自身は、「ブラウザアプリ」「メールアプリ」と表現しているように、ブラウザとアプリケーションを明確に区別して考えていないようです。「1つずつ開発していくという発想(our vision moving forward is based on that--a useful browser application, a useful mail application and so on)」が、結果的にブラウザのOS化を実現しているのかも知れませんが。

更に、このインタビュー記事(1/2)の中に、興味深いやりとりがあります。

--Longhornと張り合うのに、それで十分でしょうか。あちらはオペレーティングシステム(OS)とブラウザの統合という壮大な計画を進めていますが。

 我々は(Longhornに)太刀打ちできると考えています。我々は、例えばハードウェア・アクセラレーションや、新しい機能を有効に活用するために、グラフィックシステムを作り直しています。

--あなたはLonghornにほとんど無頓着なようですが、それはLonghornの開発がスケジュールよりも大幅に遅れているからですか。それとも、Longhornの登場後もスタンドアロンのブラウザが優位を保つと考えているからですか。

 LonghornはMicrosoftにとって販売しづらい商品になるでしょう。Longhornは古いタイプのハードウェア上ではうまく動作しませんが、企業にはそのような古いマシンがたくさんあります。企業に対して、これこれの費用をかけてWindowsを最新バージョンにアップデートする必要がある、またハードウェアも一緒にアップグレードしなくてはならないと言っても、顧客の側では手持ちのアプリケーションの新バージョンが動かせるようになるだけですから、これは高くつくことでしょう。

--それでも、Longhornの影響が出始めるのは、それほど先のことではないはずです。いまでさえ、XAMLを使ってアプリケーションを開発している企業があるくらいですから。

 XAMLアプリを開発している企業の数とウェブアプリを開発している企業の数には、かなりの開きがあります。Mozillaを創設したエンジニアのBrendan Eichの言葉を借りれば、「ブラウザは復活する。ウェブアプリの世界ではLonghornは重要ではない」ということになります。

--Microsoftが今後スタンドアロンのIEをリリースしないと決断したことによって、Mozillaにはどのような影響がありますか。

 ユーザーがウェブブラウザを通じて得る経験を大いに改善したいと考えた時に、Microsoftをあてにはできないということがはっきりしました。我々(のブラウザ)はIEに代わる選択肢の1つです。我々はブラウザを無料で提供していますが、そのことも有利に働いています。

このやりとりの中に、新OSレイヤーとしてのブラウザの設計上の問題がいくつかあります。

まずここに書かれているようにIEのOSへの統合化(OSのブラウザ化)です。マイクロソフトの方法は、オフラインとオンラインのアプリケーションを統合化したXAML(ザムル)アプリケーションと言う形で、Longhorn自体にブラウザ機能を持たせると言う、いかにもビルゲイツが好むWindows中心の考え方です。確かにこの方法であれば独禁法に抵触しないかも知れませんが、果たしてこの方法に将来性はあるのでしょうか。

こんな大仕掛けでなくても、世の中には既にビズブラウザと言うオンライン、オフラインの統合環境を提供する技術があります。ビズブラウザに欠けているのはアニメーションやグラフィックスですが、こちらは既にフラッシュ環境があります。

こう言った動きを見ていると、マイクロソフトは、その昔IBMがOS/2で犯した過ちを、自ら回避した道で再び歩もうとしているように見えてきます。アプリケーションを使用する側からのキーポイントは、キーボードからの入力スピードと動画を含めたグラフィックスの描画性能以外ありませんし、これ以上でも以下でもないのです。これをOSのブラウザ化と言う名目で「ルールを変えよう」とするのは、Windows至上主義と批判されても致し方ありません。

とは言え、次に想定しないと行けないのは、まず間違いなくLonghornは市場に出てくるでしょうから、この中途半端なOSの上で新OSレイヤーとしてのブラウザをいかに動作させるかです。当然上位互換と言うことで、今までのWindowsアプリはそのままでも動作しますから、一見心配ないようにも思えますが、今後はウェブアプリだけでなくXAMLアプリ自体もサポートしなければ、皆、Longhornでブラウズするしかなくなります。

これはあたかもVHSかベータかで争ったと同じ規格戦争と言えなくもありません。

一旦Javaのライセンス問題で敗れたマイクロソフトが、XAMLをひっさげて再び戦いを挑もうとする構図です。ブラウザの未来形の実像がいよいよ見えてきました。 KAI