ソフトセクターとは(その7)

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サービスを誰が提供するのか

再びCNETの渡辺聡さんのエントリー「IT投資の質的変化(2):ソフトウェアビジネス編」を取り上げます。

さて、ここまで来たところで、改めて問いたいことがある。仮にWebサービス的な実装方法が順調に普及し、サービスレベルまで分解された機能を組み合わせてシステムを組み上げるような仕組みになっていったとして、そのサービスを誰が提供するのか。

まず普通にあるのが、社内部門。アプリは外から買って構築を外部パートナーに依頼したとしても、資産としては自分達のものをするこれまでと基本変わらない方法。次に、ASPサービスがWebサービス化していくパターン。このパターンだとベンダーが提供する標準的なサービスをベースに組んでいくこととなる。eBay、Amazonなどが標準的に準備しているAPIもここに含んでしまって良い。最後に、大規模アウトソースのように、ユーザー企業とテクノロジーベンダーが一緒になって、ベンダー側に構築から運用までを任せきるパターン。IBMやEDSが代表事例となる。

それぞれ、
 ・個別個別のサービスを提供する
 ・サービスを取りまとめて、統一的なプロセスを設計管理する
 ・そもそもどういうサービスが必要かを考える
の三つを誰が担うかが変わってくる。上に行けば行くほどベンダー側の仕事となり、下に行けば行くほどユーザー企業側の仕事となる。インフラを誰が提供するのか、というポイントもあるが、中間領域を誰がどのように分担するのかが当面の間模索の続く領域となる。個別管理を可能とし、柔軟性を高めたところで、最後何らかまとめないといけないことには変わりない。

ソフトアセットとしてのWebサービスの位置づけについてはまた別に議論するとして、この「サービスを誰が提供するのか」は確かに重要なテーマです。しかし、このテーマの本質は、今までの私の議論を読んで頂ければ一目瞭然ですが、ソフトアセットである業務ノウハウを誰が持っているのか、という問いでもあるのです。

簡単に考えると業務ノウハウはユーザー企業側にあって、その実装ノウハウがベンダー側と思いがちですがこれは必ずしも正しくありません。ユーザー企業が押さえていると思っている業務ノウハウは、前回の私のエントリーで例示した業界の4800の機能の内せいぜい3割、1600です。それではこれを3社集めれば4800になるかと言えばせいぜい1800かそこらしかなりません。つまり4800にするには少なくとも百社以上、場合によって数百社のユーザー企業の業務ノウハウを集める必要があると言うことです。

これに対して、1企業にとって4800の機能はすべて必要ではなく、自社で必要となる機能で十分だとの反論があります。しかしそうはうまく問屋が卸しません。既に保有している業務ノウハウは問題ないにしろ、これも前回のエントリーに書いた通り、企業の必要とする機能は時間軸とともに次々と変化していきます。そのノウハウを自社の経験と言う形で時間を掛けて獲得していくか、ベンダーを含む他社(あるいは人材)が所有するノウハウをお金で買うかいずれかになります。

どちらが効率的かは考えるまでもありませんが、通常ユーザー企業(特に日本では)がとる方法は前者であり、結果的に業務ノウハウを持っているのはユーザー企業側となっているのです。

しかし、これも既に議論してきた通り、ソフトセクターの流れはこの業界全体の業務ノウハウの獲得と実装と言う次元に移っており、これは1ユーザー企業にできるものではないのです。もちろん相も変わらず多大なるコストを負担する自社開発、自社メンテナンスを選択する企業は残りますが、これは4800に含まれない機能の業務ノウハウを持つユーザー企業に限られてくると思います。

物流サービスが物流専門会社による全国ネットワークに集約されていったように、ネット社会では、ユーザー企業=業務ノウハウと言う図式ではなく、ネット社会の専門企業=業務ノウハウと言う構造に収斂していくというのがKAIの推論です。 KAI