ソフトセクターとは(その3)

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ソフトセクターの競争戦略(1)

このテーマの元ネタのタイトル「持たずに押さえる:ハイテク/インターネットセクターの競争戦略試論」とある通り、元々はソフトセクターの競争戦略とは何かを考えるのがこのエントリーの目的です。

渡辺聡さんが、

その他幾つかの事例をケースとして浮かびあがってきた方向性としては「”持たない”が”押さえる”」というのが一つキーワードとなるのではなかろうかという話だった。

と書いている戦略とは、私の論で行けば、コスト効率にさらされるハードアセットを「持たない」で業務ノウハウと言うソフトアセットを「押さえる」、と言うことになります。

放っておけばソフトアセットはハードアセットへと流れていく習性があります。

もともと業務ノウハウを持って様々なモノを販売しているハードセクターでは、その業務ノウハウを内製化し自社システムとして構築しています。そのシステムのハードを含むメンテナンスと機能追加のコストはすべて自社負担です。すなわちこれはまさしくソフトアセットのハードアセット化です。

これを、ソフトセクターとしてビジネスモデル化するのがASPサービスですが、これには二つの大きな問題があります。

サーバーを含めてシステムを外部に預けるという問題

ASPにおいて必ず問題になるのが、サーバーを含めてシステムを外部に預けると言うことです。特にERPのような企業の基幹システムなら尚更です。万一ASPサービスが停止してしまったら企業の業務そのものが停止してしまいます。

この問題について、以前LOOP誌で梅田さんが行った、セールスフォース・ドットコム会長兼CEOであるマーク・ベニオフ氏へのインタビュー記事「ITは死んでいない。ASPモデルが成功する」に次のようなやりとりがあります。

Q シルバーレイク・パートナーズの投資家であるロジャー・マクナミーは、セールスフォースは「顧客側の不安感」が障害になっているといいます。つまり、確固たる証拠はないものの、このソフトはセキュリティに穴があるのではないか、こちら側で管理が十分にできないのではないかと、製品を100%信頼するのに心理的な抵抗を感じるということです。この問題にはどう取り組んでいますか。

A 同じようなモデルで成功している他業種の例を出して説明します。たとえば、給料支払いをアウトソースし、請負会社へデータをすっかり移行させている企業はたくさんあります。あるいは銀行。銀行に金を預けているからといって、心配しませんね。給料支払いをアウトソースしても大丈夫で、銀行に金を預けても安全で、ホットメールの電子メールを利用しても、アマゾンに店を出しても心配はない。

 そして、セールスフォースに販売データがあっても安心なのです。時間をかけて、その安心感を築いていくのです。何度も対話しながら、顧客の成功があってこそ、われわれも成功するのだという、同じメッセージを伝える。いずれヨーロッパや日本でも、さらに多くの企業がデータを社外に移行させるこのモデルに倣うはずです。

 今、ベンチャーキャピタリストに話を聞くと、彼らはもはや従来のようなソフトウエアメーカーには関心がない。それよりも、セールスフォースと同じようなモデルのスタートアップに投資を向けているといいます。それも、特に業界のバーティカルな問題を解決するようなソフトを開発しているところが多いと聞きます。

このインタビューの回答の通り、この問題は時間が解決するものと考えています。これを加速させるには楽天と同じようにこのセクターの成功事例を積み上げていくしかありません。

自社独自の業務ノウハウの蓄積の問題

もう一つの問題が、パッケージでは自社独自の業務ノウハウが蓄積できないのではと言う問題です。しかも、この問題が、企業がASPサービスの導入を躊躇する一番の要因ともなっています。これに対する対策は、私たちが運営するASPサービスでは既にできているのですが、ノウハウに関わる部分ですのでここでは割愛させて頂きます。ただいかなる対策を行っても、企業側の「自社システム=自社独自ノウハウ」と言う思い込みを払拭させるのは簡単ではありません。

つまり、このことはソフトセクター内部での競争力だけではなく、ハードセクターの中にある自社システムとの間の競争力が、ASPサービスと言うビジネスモデルに備わっていないと、魅力ある成長市場とは見なせないと言うことでもあります。

これに対するヒントが、先のインタビューの中の「特に業界のバーティカルな問題を解決するようなソフト」です。私の記述で行けば、マス化した「業務」ではなく全ての「業務」範囲の中の特化・個別化した「業務」機能をカバーするASPです。

これであれば上記の二番目の問題の自社独自の業務ノウハウ自体、自社にないものが最初から備わっていて、ASPを利用すること自体が他社との差別化になると言うものです。では他社も利用し始めたらどうなるか。これは利用経験という組織としてのナレッジの蓄積として差別化が可能であることを考えれば解決します。逆に後塵に拝した場合のASPサービスの利用のメリットは説明するまでもありません。

このことから、現在多く行われているようなグループウェアなどのマス化した「業務」のASPでは競争力という意味で問題外の「業務」だと言う結論を導くのは、容易です。

以下次回に。 KAI