iPoCast−iPodが進化する

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こう言う記事が載るからCNETは止められません。梅田さんのゲストブロガー川野さんのエントリー「新型ウォークマンは「新しい何か」を提供しているか?」を読んでやっとiPodの「意味」が理解できました。

ソニーが「音楽を携帯する」という新しい生活様式をウォークマンで20年以上も前に提案したとき、それは世に対する革命的なメッセージであった。音楽をテープにいれ、イヤホンでそれを聞く、というのはそれまでに無かったスタイルだったからだ。「新しい市場を作り出す=人の行動様式に変化をもたらす」という革命を実現した。iPodも2001年にそれと同じような革命を起こした、というのがEconomist誌で英国のSussex大学のMichael Bull教授が説明している。この記事、「The meaning of iPod」は無料では見られなくなっているようなので、引用を行わずに内容を紹介しよう。

彼は技術の文化に対する影響を研究する第一人者で、これまでに数百人ものウォークマンユーザ、iPodユーザを研究して来た。彼の結論は「iPodの起こした革命は、何千曲もの大量の楽曲を持ち歩き可能にし、しかもそれを自由にジュークボックス的に聞けるようにした事だ」という。彼の研究によると、人は気分に応じた音楽を聴く事を求めていて、気分に合わない曲を聴くくらいなら全く聞かないという選択をするらしい。出かけている間に聞けるくらい程度の数の曲をCDやMDなどに入れて持ち歩けば十分で、わざわざハードディスクに聞ききれないほどの曲を詰め込む必要がない、と思っていた競合他社はこれに気がつかなかったことが仇となった.

音楽を聴くと言う行為が「そこにあるものを聴く」から「環境を作るために聴く」に変わったというのがBull教授の説くiPodの意味合いだと私は解釈している。仕事や勉強をするため、運動をするため、通勤や通学をするための「自分だけの世界」を作るのに人々はiPodを使っているのだという。この目的でiPodを聴いている場合、人は携帯電話に出る事さえためらうのだそうだ。

そう考えるとiPodの米国での人気が日本よりもまだ圧倒的に高い、というのも頷ける。日本ではこのような「細切れの時間を使って自分の世界を作るための手段」として携帯電話という素晴らしいソリューションを既にもっているため、いまさらその選択肢を増やす必要がないからだ。米国人はとにかく良く運転をし、よくジョギングをする。どちらも携帯電話を見つめながらではできないことだ。これまで「環境を作るための音楽」を自分で編集するのにCDやMDでは手間がかかったが、これをオンザフライにいつでも親指くるくるとすれば簡単にできるのが、iPodの革命なのだろう。

なるほど「環境を作る」ですか・・・。

確かに、私の例で行けば、毎朝2時に起きて居間で仕事をするのですが、まず何をやるかと言うと、居間のテレビをつけます。更にパソコンのテレビも付けます。両方音は消してあります。WOWOWだけ番組表を見てあわせるか決めますがそれ以外は、スイッチを入れた時のチャネルが映っているままです。そう、二つのテレビで私は仕事の「環境を作る」作業をしてから、もう一台のパソコンで仕事を始めます。

なぜそうするか、これは目が寂しいからと言うのが一番適切な表現です。音楽を聴きながらと言う人もいるかも知れませんが、私の場合は考え事をするのに音楽を含めて音が聞こえると全く仕事になりません。頭の中に思い描きながらぼんやりと音のしない二つの映像を眺めているうちに、これがなぜか突然良いアイデアが湧いてくるのです。

この音のしない映像と言う環境を私は受動的ですがそれなりに選択します。いわゆる毒にも薬にもならない見ていて刺激にならない映像を選ぶと言うことです。かと言ってNHKの夜明け前に流れる映像散歩のような映像ではなぜか理由は分かりませんがアイデアが湧いてきません。

さて、この「環境を作る」と言うサムシングニューの意味をもう少し踏み込んで考えてみたいと思います。

そのために「iPoCast」と言うネット端末機器を想定します。iPoCastは、iPodと違って、音楽をダウンロードではなくインターネット放送(実際は揮発型のダウンロード)の形で受け取りその場で聴く装置です。チャネルは楽曲分ありますから何千チャネルあり、1チャネルでその曲だけが繰り返し放送されています。事前に聴く楽曲をプログラムできるようになっており、何曲でもプログラムできます。更に何種類もプログラムできるようになっていて、気分に合わせてプログラムを選べるようになっています。まるでプライベート放送局のDJ気分です。もちろん料金体系も、ほぼiPodと同じになるように、1回聴けば1ダウンロードとしてカウントしてそれ以降何度聴いても料金はかからないようにします。あるいは別の料金プランを用意して、同じ料金でできるだけ沢山の種類の曲を選べるように、1曲の無料で聴ける回数を制限した上でダウンロード料金を割安に設定することも可能です。この割安プランを進化させ、月額固定料金で聴くことができる楽曲の種類の上限を設ける定額制プランもありです。

iPoCastのメリットは楽曲をダウンロードしないのでデジタルデータのコピー問題が発生しないことですが、上記の定額制プランに、レディーメイドのプログラム自体を組み合わせれば、現在月額制で有料で視聴している放送番組と同じ感覚のプライベート放送局さえ実現できることです。

そうです、iPoCastはiPodの「環境を作る」機能を更に進化させた世界を想定しています。

環境とはライブでありリアリティです。つまり、数えられるような曲では環境とは言えません。私が考えるiPodのリアリティとは実はこの何千と言う楽曲の数です。リアリティとは日本語に訳せば新鮮さ、つまりライブと一緒です。この新鮮感覚がiPod以上にiPoCastでは実現できると言う仕掛けです。

考えてみれば、私の「環境作り」においてNHKの朝の映像散歩の映像を選択しない理由がわかります。映(え)がほしいわけではないのです。もっと重層的に映像に意味を持った感覚の世界を求めているのです。

またまたビビッドなテーマが出てきました。次回をお楽しみに。 KAI