今週号の日経ビジネスの特別編集版に、フィリップ・コトラー教授のインタビュー記事が出ています。経営の根幹を担うCEOについて、以前のエントリーCEOは大変(続き)で私なりの結論を得ました。今回の記事は、これを補強するに足る内容でした。
記事によれば、フィリップ・コトラー教授は、
「伝統的な経済学では在庫を減らすためには価格を下げるという考えになる。しかし、企業は広告を増やしたり、新しい機能を加えたりと多様な展開で売り上げを伸ばせる。新しい形の経済学をマーケティング理論で作った」
と話し、インタビューの冒頭で、マーケティングを理解するためのエッセンスを説いています。
マーケティングをうまく進行させるには、会社が一丸となって取り組むことが大切です。社員全員が「顧客獲得」を意識しなくてはうまくいきません。考えてみて下さい。営業部員がせっかく注文を取っても、製品の品質が良くなかったり、配達が遅れたりすれば、顧客は逃げてしまうでしょう。経理部門が間違った伝票を相手に送ってしまっても同じことです。ですから社員は給与が会社ではなく、すべて顧客のお金であることを再確認したうえで、マーケティング活動に取り組む心意気が大切です。例えばソニーでは、高品質というブランドイメージを浸透させるために営業と生産部門が一体となり、それぞれ何をすべきか考えています。これが正しい進め方だと思います。
もともと1930年代に、米消費財大手のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)がブランド管理という経営手法を開発した時は、マーケティング活動はもっと単純でした。ブランド管理マネジャーが全責任を負って、活動内容を決めていたからです。
しかし、時を追ってこの考えは変わってきました。マーケティングはもっと様々な企業活動の融合であると考えられるようになったからです。財務担当者が製品の価格を勝手に決めてしまったり、購買担当者がコスト削減のために品質を落としたりしては、企業価値は上がりません。マーケティングは企業のCEO(最高経営責任者)が先頭に立って進めるものになったのです。単に宣伝や広告の内容、その予算を決めるだけではなく、顧客への価値提供やそのためのマーケティングの役割は何かをきちんと定義することが求められます。とはいえ、まだまだマーケティングを狭い範囲でとらえている経営者が多いことも事実で、これには失望させられます。
マーケティングの基本は4つのP。製品(Product)、価格(Price)、場所(Place)、そして販促(Promotion)からなります。経営者には販促と見ている人も多いのです。つまり、どのくらいの宣伝費と営業部員を動員すれば、売上高はどれほど上がるだろうかと。
しかし、そうではありません。マーケティングの役割は人々が快適に消費活動ができるように様々な点から支援することです。ですから自社が市場の中でどんな製品を出してどんな経営をしたいか。企業戦略を考えることが基本になります。それが定まれば、対象となる顧客や、その製品、そして購買や財務活動などが明確になります。
CEOにとってマーケティングは基本中の基本です。CEOが、身体感覚レベルで全社員と一体となって、自らの意志を具現化させる活動の要がマーケティングです。社員は、CEOと言う身体組織の一部となってマーケティングを実践していきます。マーケティングの直接の担当者は、このCEOの意志を身体感覚レベルで理解し、各自が自律的に行動し、顧客の支持と言う最終目標を達成していくことになります。これらの活動が、CEOから見ようが社員から見ようが、全く自然な形の動作、考え方、言葉となって遂行されるようになるというのがCEOは大変(続々)の中の「規律の文化」であり、「第五水準」であり、「身体感覚」と呼んでいることなのです。
インタビューの中でコトラー教授から仏教の「禅」であるとか、マーケティング担当者の「情熱」とかの言葉が出てきます。私は、この「禅」と「情熱」もすべて「身体感覚」レベルのところでつながっていると考えています。
もう少し時間が経てば、これらのことをもっと具体的な言葉にできるのではないかと思いますが、今はこの表現が限界です。 KAI